いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「異人館画廊 星灯る夜をきみに捧ぐ」谷瑞恵(集英社オレンジ文庫)

英国時代の恩師から、博士論文を勧められた千景。それは再びの渡英を意味していて……。そんななか不可解な強盗事件に、呪われた絵画が関わっているらしいと相談を受けた透磨と千景は、やがてカラヴァッジョに魅せられた男と、父との軋轢に苦しみ続けた女の奇妙な接点に気づく。見る者の心揺さぶるアウトサイダー・アートの謎を追う。異人館画廊、第一部・完結!


過去の記憶を取り戻したことで、今後は自身の将来のあり方に悩む千景とそれを見守る透磨。そんな中、呪いの絵にまつわる事件が彼らに舞い込むシリーズ第7弾。
初めから図像学に関係する絵画ではないことが半ば解った状態で、窃盗犯は転落死していて、後は絵画の行方を探るだけ。今回は軽い事件なのだろうと思っていたら、真相を追えば追うほど関係者が増え、それに比例して絡んでくる思惑や想いが増えていく展開に。いつものような図像学の持つ得体のしれない怖さは薄いが、その代わり愛憎犇めく負の連鎖に怖さを感じる、サスペンスとして読み応えのあるストーリーになっている。
でも、読者の一番の関心事はそんなことより千景の気持ち。
前回、千景が記憶を取り戻し、透磨との兄妹のような関係から一歩抜け出して、一気に関係が進むだろうと期待していたのに、、、なにも変わってない! シリーズ当初から考えれば信じられないほどの信頼感なのは頭では理解しているのだが、どうしても一話一話の進みが遅いので、進展していないように見えてしまう。しかも、今回は静観の構えだった周りの人達が一生懸命後押しし始めたのに、当の本人たちが現状にある程度満足してしまっているので全然動かない。透磨くん、そういうとこやぞ!
そのもどかしさは、それを売りにしているそこらの両片思いラブコメが裸足で逃げ出しそうなレベル。長期シリーズでしか出せないもどかしさだよね、良くも悪くも。
人の多難な恋路を見て、自分の幸せを噛みしめて次こそはというところで、千景が渡英で第一部完結なんだそうで。期間と距離を空けたらまた後退しそうなんだが大丈夫か? そして第二部は出るのだろうか。