季節はクリスマス直前――いさなのイラストの才能に魅せられた水斗は、彼女のプロデュースに熱中していた。気分転換に訪れたゲームクリエイターの講演会で登壇していたのは……結女の実父・慶光院で!?
「きみは、自分の幸せの形がどういうものか、すでに気付いてしまっているのではないかな?」
膨らむ結女への想いを自覚しながらも、二人が再び恋人同士になれば、それは家族の問題で。そんな恋心と現実に揺れる水斗に、「私と、一緒にいてくれないと……やだ」結女は好意を隠さずぐいぐい攻めていき――!?
再び両想いとなった結女との未来か、いさなの才能を世に示す夢か。今“きょうだい会議”を開くとき!
年の瀬。結女が自らに課したタイムリミットが迫る中、周りに多くのアドバイスを貰いながらついに動く結女と悩む水斗の様子を描くシリーズ第9巻。
決意の夏から苦節4ヵ月(丸4巻分)。漸く行動に移し始めた結女を「やっとですか」と呆れ半分期待半分で見守る回になるのだろうと読み始めたら、水斗の方が深く思い悩む水斗メインの回だった。
「好きです。付き合ってください」「はい」――めでたしめでたし。という、ラブコメの通常ゴールは既に経験済みで、その後に失敗している二人には、そんなものはゴールになり得ない。だからこそ、ハッピーエンドのその先へ。そこへ至る苦しみを描く、そんな重くも尊い物語。
合わない恋愛観、一度失敗しているからこその怖さ、再び別れた時の再婚した親への影響まで考え、ついには普通の幸せや家族像は自分には合わないのでは?というところまで。恋愛観というより人生観を悩む水斗。一度の失敗でそれをある程度感じ取り、同じく思い悩む結女。
そんな二人が出した答えは、安易に答えを出さず考え続ける事ととことん意見を突き合わせる事。
高校生の身空でここまで将来を考えないと先に進めない二人の頭でっかちさに面倒くささを、ここまで気を使わないとならない境遇に気の毒さと寂しさを感じるが、そうまでして悩み抜いて考え抜いて、とことん話し合って意見と意思を擦り合わせて出した答えだからこそ、エピローグで大きな幸福感と未来への安心感が感じられる。
愛の形が普通じゃなかったとしても、隣にいる人だけは常に決まっている。そんな未来を感じさせる、サブタイトル『プロポーズじゃ、物足りない』の使いどころに痺れた。
そして、二人に振り回される形になったいさなの切ない心境が花を添える。心で泣きながら祝福の言葉を紡ぐ彼女の強さと心の美しさに感動。と同時に、絵の才能が失恋を感じた時にばかり成長していく彼女の将来に一抹の不安がw
次回、新年新学期。ラブコメのゴールの先も気になりつつ、とりあえずは付き合い始めた二人の変化と周りの反応が楽しみ。