いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「サマータイム・アイスバーグ」新馬場新(ガガガ文庫)

真夏の三浦半島沖に現れた巨大な氷山――それが、運命を変える夏の始まりだった。三浦半島にある高校に通う進、羽、一輝。かつては仲の良いグループだった三人は、一年前のある事故が原因で、今はぎこちない関係が続いていた。ある夜、進は氷山が出現した海岸で、身元不明の謎の少女と出会う。「楽しい夏休みを過ごしたい」という少女の希望を叶えるため、進たち三人は奔走するが、氷山出現の秘密が明らかになるにつれ、進たちの手には負えない大きな力が少女に迫る。第16回小学館ライトノベル大賞・優秀賞に輝いた、「一度だけ」の夏を駆け抜ける、恋と青春の物語。

第16回小学館ライトノベル大賞<優秀賞>受賞作



高校が夏休みに入って数日、三浦半島沖に巨大な氷山が現れて――タイムトラベル×歪な四角関係な青春SF。
SFは良かった。青春も良かった。だがしかし……
タイムトラベルの詳細な設定だけでなく、突如現れたタイムマシンに利権とメンツが絡む大人たちの動きまで事細かく考えられていて、SFとしての読みごたえは十分。
また、青春小説としても、自分が好きになれない思春期の少年少女の葛藤や鬱屈した心中がリアルに表現されていた。特にヒロインの一人の羽の、家族に優しくしたいのに口に出るのは悪態ばかり。そしてそれを言った自分がまた傷つく。の悪循環は身に覚えがあり過ぎて身につまされる。
この二つの要素が上手く一冊にまとめていたら傑作だと手放しで褒めちぎっていたところなのだけど、、、
申し訳ないが、一作品としてのクオリティはかなり低いと言わざるを得ない。
明らかに詰め込み過ぎで後半肝心なところで駆け足になってしまっているし、二つの要素を一緒にやる意味が特に感じられない。むしろ、お互いに流れは阻害せず詰め込みにならない為にも、バラバラに書いた方が良さそう。そして何より三人称の地の文に突如一人称の文章が入ってくるのがとても読み辛い。しかも登場人物が多いシーンではその一人称が誰の心の内なのか分からないことがしばしば。
設定は良かった。訴えたい事への情熱と表現力は良かった。しかし、それをまとめるだけの文章力・国語力がなかった。実に新人賞らしい作品。