いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「小説 すずめの戸締まり」新海誠(角川文庫)

九州の静かな港町で叔母と暮らす17歳の少女・鈴芽。ある日の登校中、美しい青年とすれ違った鈴芽は、「扉を探してるんだ」という彼を追って、山中の廃墟へと辿りつく。しかしそこにあったのは、崩壊から取り残されたようにぽつんとたたずむ古ぼけた白い扉だけ。何かに引き寄せられるように、鈴芽はその扉に手を伸ばすが……。過去と未来を繋ぐ、鈴芽の“戸締まり”の物語が始まる。
新海誠監督が自ら執筆した原作小説!

2022年11月ロードショーの新海誠監督最新作の先行リリース小説版。


人の営みが廃れたところに現れ、開いたら天災を引き起こすドアを閉じる役目を持つ閉じ師の青年と、普通の人には本来見えるはずのないそれらが見えてしまう少女・鈴芽が出会ったことから始まるボーイミーツガール。
……いや、ガールミーツチェアーか? 女主人公に対するヒーローが本編中の大半が椅子の姿という、それでいいのかという疑問と、絵的に面白いからいいかという楽観が交錯する、奇妙な二人旅の物語だった。
第一印象というか、真っ先に来る感想は「よー走るなー」である。
五日間で九州から東北までを北上する移動距離もさることながら、印象に残る場面の大半で主人公の鈴芽がひたすら走っている。過去の新海作品では考えられないくらい、エネルギッシュで疾走感のある話だった。映像になったら「君の名は」以上、「天気の子」とは比べ物にならないくらい躍動感のある絵になることは間違いない。
語られるテーマは、大震災を経験した少女が抱える心の闇、生きることの意味、届かない周囲の愛など、心に大きな傷を負った少女の葛藤をストレートに描いている。非常に重いテーマだが、鈴芽の持つ快活さと相棒が椅子というコミカルさ、出会う人たちの優しさで、シリアスになり過ぎない良いバランスで、息苦しさなどはなく読みやすい。
また、吐きだせずに抱え込む鬱屈した想いや日常に感じる窮屈さ、若者が抱える閉塞感が根底ある新海作品らしさも健在。それにしても家出少年/少女好きね(^^;
登場人物それぞれに抱えているものがありながらも、ベースが分かりやすい現代ファンタジーの冒険譚なので、純粋にワクワク出来る映画になりそうで楽しみ。といいつつ地上波でやるまで視ないんですけどねw