いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「虚構推理短編集 岩永琴子の密室」城平京(講談社タイガ)

一代で飛島家を政財界の華に押し上げた女傑・飛島龍子は常に黒いベールを纏っている。その孫・椿の前に現れはじめた使用人の幽霊が黙示する、老女の驚愕の過去とは──「飛島家の殺人」
あっけなく解決した首吊り自殺偽装殺人事件の裏には、ささやかで儚い恋物語が存在して──「かくてあらかじめ失われ……」
九郎と琴子が開く《密室》の中身は救済か、それとも破滅か。


虚構推理の小説版6冊目は密室にまつわる事件を集めた短編集。
密室を妖や幽霊に台無しになれて犯人が慌てふためく因果応報の話が二つと、心理的に密室と言えなくはないけれど実際は密室ではない話一つ。ストレートに密室を扱わないのがこのシリーズらしい。それと密室は関係ない掌編二つを加えた全五編。
可能性の言う名の屁理屈をこねくり回し、正解を導き出すのではなく、誰もが納得する推理を作り出す。『虚構推理』の特色が随所に出ていて、久しぶりでも虚構推理の世界を堪能できる短編集で大満足。特に屁理屈をこねくり回すところが大好物。それと、遣る瀬無い最後だったり、琴子が身も蓋もないオチを付けていったりで、バッドエンドではないのにどこかモヤっとしたものを残す読後感なのも実にこのシリーズらしい。
そんな諸々のらしさが一番出ていたのが五話目の中編『飛島家の殺人』
50年前の事件の真相に理由付けする話だが、最も意地の悪い推理が最も説得力があるという当事者は苦虫を噛み潰したような顔をするしかない結末に、やっぱり一番怖いのは化け物や幽霊じゃなくて人間という答えと、琴子の得体のしれない怖さが強く印象に残る。但し、この話のハイライトは琴子が「幽霊や化け物に真相を訪ねるのは卑怯」とか言い出すところだけど。どの口が言うか! 酷い「おまいう」を見たw
らしいという点で、何とも言えない読後感の最たる話が『かくてあらかじめ失われ』
純粋な少女がハッピーエンドを掴めそうでホッとしていたところに、愛憎を煮詰めたコールタールのようなオチを投下していく琴子に「もう!」と言いたい。これはあの六花さんに呆れられるのも仕方がありませんわ。
逆に後味悪そうな話を軽い感じに仕上げた『怪談・血まみれパイロン』も良かった。
おひい様は新作落語も書けるのか。流石知恵の神。ところで、九郎の言うライターの幽霊は本当にいるのだろうか。これがホントのゴーストライター……って、やかましいわ!
そんなわけで、らしさ全開でとても面白かった。基本は漫画原作だから短編の方が合うんだろうな。