いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「よって、初恋は証明された。 -デルタとガンマの理学部ノート1-」逆井卓馬(電撃文庫)

よって、初恋は証明された。 -デルタとガンマの理学部ノート1- (電撃文庫)

「検証してみようよ……科学的に!」
思うに〈青春〉というのは、よくできた推理小説のようなものだ。
失われてしまった恋愛成就の桜の謎。部活勧誘の小さな違和感。巨木の樹齢に秘められた物語。密室で消えたハムスター。壊れかけの生物部に捧げられた、高校生たちの切実な決断。
無関係だと思われたひとつひとつの因果はどこかでつながっていて、あとから振り返って初めて俺たちはそれを〈青春〉と認識する。そこでようやく気付くのだ。見落としていた大切なことに。
これは、科学をこよなく愛する高校生たちが日常で直面する数々の謎に挑む、綱長井高校「理学部」のささやかな活動記録。
――そして、一つの初恋が解き明かされるまでの物語である。


理系に強い進学校で繰り広げられる科学を愛する学生たちの青春ラブコメ
事実だけを要約すると、廃部寸前の生物部を新入生たちが復活させる物語。学園ものでよくあるタイプの話なのだけど、その過程がとてもとっても回りくどい。だからこそ読み物として面白い。
初っ端から会話の中に随所に科学用語を挟んでくる独特なセンスの会話劇に理系人間としてニヤリとしていたら、その後にもっと好みのものが出てきた。
作者の前作『豚のレバーは加熱しろ』で豚よくがやっていた、相手の思考を読んで真意を探って自分たちの行動を決めていたその過程を、主要な登場人物たちがみんなでやり合っている感じ。ある人は先回りして気を遣うため、ある人は自分をよく見せるため、そしてある人は他人を思うように行動させるため。相手の考えを読み解こうとすることは、現実でも多かれ少なかれみんなやっていることだけど、それをわざわざ表に出して表現しているのがこの作品の面白いところ。トリの謎解きがかなりご都合主義が入っていてミステリというにはどうかと思うところはあるけれど、理詰めで物事の真意を導き出そうとする論理的思考はミステリ読みとしても読み応え十分。
ロジカルな思考の組み立てを好むミステリ好きや理系のラノベ読みにはきっと刺さるであろう一冊。自分には見事にぶっ刺さった。続きも楽しみ。