いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「妖精の物理学 ―PHysics PHenomenon PHantom―」電磁幽体(電撃文庫)

妖精の物理学 ―PHysics PHenomenon PHantom― (電撃文庫)

逆さまの街で、雪の結晶を宿す妖精に出会った。
「たった今、世界の法則を再定義しよう」
2032年に提唱された前代未聞の物理学理論により、世界の在り方は大きく変わった。特定の物理現象が少女の姿で具現化した存在――『現象妖精』は、人類に多大なる恩恵と、未曽有の大災害をもたらした。
七年前、『現象妖精災害』により一度崩壊し――復興した街・神戸。そこに暮らす少年・カナエは平穏な日々を過ごしていた――はずだった。あの日、助けを求める彼女の声を聴くまでは。
「1500万もの人間を、この手で一度に、――殺しました」
世界の秘密と、犯した罪。少年と妖精の逃避行が今、始まる。
大賞受賞作家が遺した感動の大作が堂々刊行!

第31回電撃小説大賞《大賞》受賞作


とても懐かしい香りがするセカイ系ボーイミーツガール。
“逆さま”に積層されているという神戸に、物理をひっくり返す現象妖精(フェアリー)という存在。中二心をくすぐられる要素たっぷりの世界観が綿密に練られていて、またその描写が濃密で、主人公たちが生きる世界を想像するだけでワクワクする。独自の言葉(カタカナルビ付きの単語)が多いので慣れるまでは少し苦労するが、独自の物理学とそれを生かしたバトルシーンは圧巻の一言。これが続きものなら初めからインフレを心配してしまうくらいに大規模でエキサイティング。
しかし、世界観の構築に全精力・全情熱を向けてしまった結果なのか、キャラクターとストーリーに魅力が感じられない。「どこかで読んだことあるような」以上のものは出てこない。なまじ世界観が重厚な分、上に乗るそれらがより薄っぺらく感じてしまう。なのでキャラクターへの感情移入が出来ないまま、ラストまで淡々と進んでいってしまった。
土台はこれ以上なくしっかりしているので、これが2巻3巻と続けられればキャラクターの深堀りが出来て、物語としての完成度や面白さはもっともっと上がったはずなのだけど、著者の方はすでに亡くなっているそうで。この魅力的な世界がこれ以上広がらないのはとても残念だ。
それと気になってしまうことがもう一つ。
大賞作にして大事な遺作なのに、イラストが表紙を含めて3枚しかないのは何故なんだ?
続刊がないからキャラデザの数を増やせないのは百歩譲って解らないでもないけれど、3人分はあるのだから他のシーンもいくらでも用意できたしょうに。基本逃避行で戦っている時以外は他のキャラほとんど出てこないんだから。遺作だと公言して宣伝打っている割には、中身には出版側の愛が感じられないのはなんだかなーと思う。