「お花が満開だよ。綺麗だねえ。キノ」エルメスが言った。「転ばなかったよ」キノと呼ばれた運転手が言った。
ピンクが混じった草原を走っていたキノとエルメスは、なだらかな丘を一つ越えた時、「前方に、お仲間」「ボクにも見えた」進む道の上に、今までまったく見えなかった、自然以外の物を見つけた。それは、道と草原の隙間に横倒しになっている一台のモトラドであり、それを起こそうと力をかけているが起こせないでいる運転手だった。
(「×××××の旅 ―25 Years―」、他全12話収録)
祝『キノの旅』&時雨沢先生デビュー25周年。『キノの旅』実に5年ぶりの新刊。
5年!? そんなに経ってる? 2年くらいは出てないなーって感覚だったけど、5年は予想外。時が経つのが早すぎて震える。
今回は皮肉の利いた社会風刺的なエピソードあり、あるライフルの数奇な運命が語られる中編あり。まあ要するにいつものキノの旅。何年経っても変わらず楽しめるコンテンツってそれだけで素晴らしい。
最も好きなのは「温度差のある国」。
夏は酷暑、冬はドカ雪に苦しめられている日本人にとっては三度も「羨ましい」と思ってしまう話。その解決方法を取れる技術力も、国としてそういう舵取りが出来る思い切りも、その土地も。最後の解決法が全滅フラグっぽい黒さもキノの旅らしくて好い。
他には「言い換える国」「冗談が通じない国」はSNSや国内外の政治家への遠回しな皮肉が効いていてニヤリと出来る。いつものことながらその遠回し具合、いい感じのピントのズラし方が上手くて、笑いで終われるのがいいところ。
あとはパーツでインパクトがあったのは、モトラドではないただのバイク(空を飛ぶもの)が出てくる「×××××の旅」と、ティーがいっぱい喋る「力を与えられた国・a」。ティーは手榴弾が使えそうなシチュエーションを嗅ぎ取ったのかな? 使わなかったけど。
次は30周年か? いや流石に長い。せめて2年くらいでお願いします。
