全戦線の同時崩壊により、前線の兵は征路を〈レギオン〉に、退路を人の悪意に鎖された。その在り様は“第86区”と呼ばれた戦場と何一つ変わらなかった。事態を察知したシンたち機動打撃群は、首都に“軟禁”されているレーナたちの支援でリュストカマー基地を本拠に防衛線を構築。かつての轍は踏むまいと奮戦を続ける。無理に笑って。飲み下せない感情に歯を食いしばって。希望を、灯して……しかし〈レギオン〉の魔の手がシンに及んだことで、彼らはかつてない危機を迎え――!
Ep.14『ペイント・イット・ブラック』“悪意で塗りつぶされていく戦場で、俺たちが戦うべき真の敵を見定める――”
1年8ヵ月ぶりの本編。ついに最終章がスタートする14巻。
切実に地図と第八六起動打撃群以外の人物紹介が欲しい。
1年半以上も間が開くと、86たちとそれに近しい人たちは覚えていても、それ以外の記憶が朧気。特に大人たちは誰が誰だか全然わからん。地名はもっとわからん。ギルヴィースって誰? 次回の重要人物みたいだけど。
愚痴はこのくらいにして本編の方は、
86の少年少女たちはこれまでも幾度となくこの世界の不条理に、大人たちの悪意に、作者の性格の悪い試練に、精神的に痛めつけられてきたというのに、今度は〈レギオン〉が86たちに直に精神攻撃を仕掛けてくるという悪夢のような作戦。いつも以上に「うわぇ、えげつない」という感想しか出てこない。国に見放され市民に敵とされている状態の今、更なる精神攻撃をされるという最悪のタイミング。しかも何故か仕掛けてこない〈レギオン〉の所為で戦闘に明け暮れることもできず、考える時間がたっぷり用意されている。悩み苦しむ若者達を描く作品ではあるが、ここまでしなくてもと思わずにはいられない。
しかし、そこはこれまで無限の理不尽を乗り越えてきた86たち。
海賊放送ラジオをきっかけに、ご自慢のシチューレシピの披露大会に。そんなユーモアと日常を交えて「それでも生きていく」と高らかに謳う、逞しい姿を見せつけてくれる。頼もしくて涙が出る。
それともう一つ、絶望の中で勇気を与えてくれたのが女性たちの強さ。
今回、悩み苦しむ若者の筆頭だったライデンには、フレデリカの精一杯背伸びした激励が。ああ、この子は間違いなくいい女になるな。
精神攻撃をもろに食らい眠り姫状態のシンにはもちろんレーナが。危険を冒してのフル知覚同調からの魂の叫びに痺れた。平時なら最高に可愛いセリフなのに、そういう甘さを楽しめないシチュエーションなのが残念でならない。
倒すべき敵の正体が見えたところで次回へ。と思ったら、またしても不穏な終わり方。敵の正体だけでも心労は計り知れないのに、さらに敵対させるつもりなのか?
