いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「街角ハルシネーション ―探偵AIのリアル・ディープラーニング―」早坂吝(新潮文庫nex)

街角ハルシネーション:探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫 は 72-5)

一見何の変哲もない1枚の風景写真。その隅には「Pasta Itally」のテラス席、6本指のウェイトレス、スパゲティを吐き出す客、そして奇妙な転び方の男が写っていた。生成AIのハルシネーションそっくりな光景だが、AI探偵事務所を訪れた依頼人は、それは確かに現実の風景だと主張する。探偵のAI・相以とともに疑惑の写真の調査に乗り出した輔は、犯人のAI・以相に急襲され、拉致監禁されてしまった。はたして相以は、すべての謎を解き、相棒を救出することができるのか。生成AI時代の本格AI探偵推理バトル、誕生!


輔が犯人AI以相に攫われた。解放の条件は生成AIで作り出した作品だと炎上した不可解な点が多い風景写真を、現実の写真だと証明すること。助手を失った探偵AI相以は事件を解決できるのか!? といった導入の探偵AIシリーズ第5弾。
生成AIの急速な発展で、現実が相以たちの世界に追いつこうとしている今、探偵AIとして何を見せてくれるのか。そういった点からも興味深く読み始めたのだけど、かなり予想外のものが出てきた。
事件のとっかかりこそ生成AI作が疑われる写真だが、現地に赴く地道な調査にしっかりと論理立った現実的な推理展開、おまけにイタリアンマフィアとチャイニーズマフィアの抗争という少々のハードボイルド要素もある、どこか古典的なミステリを感じさせる、地に足のついた探偵ものが出てきた。第三弾、第四弾とSF味とエンタメ性の強い派手な事件やゲームを扱っていただけに、急な方向転換に驚きを隠せない。こんな世の中だからこその原点回帰なのか、あえての逆張りなのか。AIかぶれのマフィアのボスの机の描写が作者の自虐で本音なのかもしれない、とちょっと思った。
天真爛漫な相以とツンデレ気質な以相、どちらもちょっぴりポンコツな二人のAIの可愛さは健在で、キャラクター小説としての面白さはいつも通り。今回は輔と長く一緒に居た以相の魅力の方がよく出ていたかな。助手としての能力もだけど、二人を映えさせる意味でも輔は必要だと証明されたわけだ。
現実のAIの急成長でこのシリーズを書きくい世の中になってしまっている気がするけれど、続いてくれるといいなあ。