いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「倫敦スコーンの謎」米澤穂信(創元推理文庫)

倫敦スコーンの謎 (創元推理文庫)

小佐内さんとぼくは、しばしば奇妙な謎に遭遇してきた。そうした謎のほとんどは「解くべき問題」として提示されてきたけど、誰も気づいていない奇妙さにぼくたちが気づくことも、たまにはあった。たとえば三月のショッピングモールで小佐内さんが謎の存在に気づいたのは、暖房の効いた店内でチョコスプレーがジェラートに沈んだ、その深さからだった……四編収録の傑作集。


小市民シリーズ短編集第二弾。高二の夏、二人が一度袂を分かつ前に起きた4つの出来事が描かれる短編集。
何故かジェラートに手を付けないスーツの女性や、時間通りに焼いたはずなのに生焼けになったスコーンなど、高校生が遭遇しうる学校や商業施設でのちょっとした謎の数々。小市民たらんとする彼らに相応しい、これぞまさしく日常ミステリな一冊だった。シリーズ直近のコンテンツがアニメ2期で、連続放火魔に交通事故に見せかけた殺人未遂にと、日常とはかけ離れた事件ばかりを視ていたので、ほのぼのした空気すら感じてしまう。
ほのぼのと言っても、小鳩君の特殊な承認欲求と小佐内さんの内なる狼、二人の黒さ時々顔をのぞかせるるのはいつも通りなのだけど。いや、小佐内さんはアニメのイメージに引っ張られて、過剰におっかなく感じてしまった気がしないでもない。同封の栞に書かれた何気ない一言がもう怖いのよ。
物語は二人が身近で起こった謎を追う全四編。商業施設が舞台の『羅馬でジェラートの謎』が一つ単独、残り三編が学校が舞台で登場人物が少しずつ重なっているのが特徴。
どの短編も短いながらも作りが丁寧で、納得感が強いミステリとして仕上がっているのは流石の一言だが、最終話の『維納ザッハトルテの謎』が良かった。それまでの三編で植え付けられた登場人物たちへの印象が、疑心暗鬼とミスリードを呼ぶ展開が見事。ただ、ネタ晴らしした人物の情けなさが何とも・・・ああ、この残念な大人が今回の後味苦めか。
青春を感じるのにどこか緊張感も孕んだ小鳩君と小佐内さんの会話に、過不足なく謎が明かされてスッキリしているのに気分的には少々ビターな結末。これぞ小市民シリーズ、これぞ米澤穂信な一冊で大満足。