いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「リカバリー・カバヒコ」青山美智子(光文社文庫)

リカバリー・カバヒコ (光文社文庫 あ 79-1)

新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の体の治したいところと同じ箇所を触ると。そこが回復するのだという。人呼んで“リカバリー・カバヒコ”。住人たちは、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明けて--。
急な成績不振に悩む高校生、ママ友に馴染めない元アパレル店員、駅伝が嫌で嘘をついた小学生、ストレスによる不調で休職中の女性、母との関係がこじれたままの雑誌編集長……。
誰もが抱く日々の悩みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。心がじんわりほどける、再生の物語。


小さな公園に佇む塗装の禿げたアニマルライドのカバには、自分の体の直したいところと同じ個所を触ると、そこが回復するという伝説があって……。おばあさんが一人で営むクリーニング屋と小さな公園がある昔ながらの団地。その近所に出来た新築分譲マンションに越してきた住人たちが主役の連作短編の物語。
挫折した人がちょっとしたきっかけで救われて前向きになる いつもの青山作品だったのだけど、いつもよりも心に“くる”話だった。
嫌なことから逃げる為や見栄を張るために嘘をついたり、空気を読み過ぎて口を結んでしまったり、小さなプライドの為に素直になれなかったり。住人たちの悩みがきっと誰でも持っている自分の心の嫌な部分を端的に言語化されているようで、身に覚えのありすぎる虚栄、心労、自己嫌悪が心を抉ってくる。なので時々読むのが辛かった。
それを癒してくれるのがリカバリー・カバヒコ・・・ではなく、もちろん人間。グループ外のママ友であったり、過去のお客さんであったり、整体師の先生だったり。その中で、登場はさり気ないのに大きな存在なのが、近所のクリーニング屋のおばあさんとそこの常連さん達。若者でも子供でも越してきた人でも分け隔てなく接してくれる、おばあさんとおばさんたちの朗らかで気持ちのいい人柄に救われて、彼女らの優しい言葉が心に沁みる。
最終話でそのおばあさんとカバヒコ伝説の関係が分かると、全てはここから始まってここに繋がっていたのだと、納得感とそこに込められた愛情で心地いい読後感。
団地を中心にした下町コミュニティの温かさを感じられる、人情味に溢れた一冊だった。