いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「折れた竜骨」米澤穂信(東京創元社)

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)
折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年──そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ? 魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか? 現在最も注目を集める俊英が新境地に挑んだ、魔術と剣と謎解きの巨編登場!

十二世紀末の欧州を舞台にした魔術ありのミステリ&ファンタジー



久しぶりに日を跨いでじっくり読んだが、時間をかけて読んで良かった。
何が良いって、ミステリとファンタジーを完璧に両立させた作りが溜息が出るほど見事で、そして面白い。
ちょっとした会話や思い出話、関係なさそうな出来事がヒントになるのはミステリの定石だが、それが物語としてはキャラクターを掘り下げるものとして機能してる。そのため語り部であるアミーナの哀しみや驚きは共有できるし、彼女の中心とした人間模様も読み応え十分。
また、魔術の方も西洋風ファンタジーに慣れ親しんだ人なら覚えのある単語がいくつも出てきてニヤリとできたり、バイオハザードに似た恐怖と緊迫感を味わえる戦争が起きたりと、ファンタジーとしても問題なく楽しめる。
もちろん、ミステリの醍醐味である関係者を集めた謎解き&犯人当てもあり、後半は衝撃と驚きの連続で息付く暇も無い。
そしてラストが特に良かった。
米澤ミステリでは定番の後味苦めはなく、犯人判明後に残された疑問が次々と明らかになっていく爽快感と、現状は厳しいながらも前を向いて未来語る二人の会話が青春小説での米澤作品の爽やかさが同時に感じられる、なんともいえない晴れやかな読後感が味わえた。
上質のファンタジーであり、計算されたミステリであり、一人の女性と一人の少年の成長譚でもあった物語。大満足です。