いつも月夜に本と酒

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「冬期限定ボンボンショコラ事件」米澤穂信 (創元推理文庫)

冬期限定ボンボンショコラ事件 (創元推理文庫)

小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされる。翌日、手術後に警察の聴取を受け、昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい……。冬の巻ついに刊行。


短編集『巴里マカロンの謎』から4年。『秋期限定栗きんとん事件』からはなんと15年。ついに出た、小市民シリーズ四部作のラスト『冬期限定』。
小鳩君が交通事故に遭うショッキングなオープニングからのスタートで、安楽椅子探偵ならぬ入院ベッド探偵か?と思いきや、話の中心は三年前。今回の事故と同じ場所で起き、自分が関わった事件を小鳩君がベットの上で思い出す思い出語りがメイン。その中で小鳩君と小佐内さんとの出会い、二人が小市民を志すことになった顛末、最後にしてこのシリーズの原点が語られる。
というわけで、中学生時代の二人の様子がうかがえる嬉し恥ずかしな物語。
所謂黒歴史なエピソードで若干の共感性羞恥を感じつつ、若い二人が(今も若いけど)拝めて嬉しい気持ちが強い。
中学生の小鳩君は推理力と洞察力は変わらずながら、自重を知らない分小賢しくて小憎らしい。ああ、これは思い出しては頭を抱えるやつだ。自分が嫌いというのも何となくわかる。
一方、中学生の小佐内さんは今とあまり変わってない。無言の圧力を巧みに使いこなす容赦のない怖さはこの頃にはもう備わっていたのか。こうしてみると、小鳩君は確かに小市民を志していたけど、小佐内さんは小市民を目指す気はあったのだろうか。今回も犯人に全力で暴走気味だし。
で、その犯人を含む肝心のミステリの方は、
変な言い方だが、謎も真相も視界外から飛んでくる感じ。事件の進展も過去との繋がりにしても、話の転がり方が予想外で「え? そっち?」となって、特に終盤は翻弄された。小鳩君と共に過去の思い出に浸っている間に、小佐内さんの周到な罠に見事引っ掛かった心境。これはやられた。やっぱり小佐内さんおっかない。
そして、このシリーズのこれまでの例に漏れず、事件の顛末の後味はとってもビター。ほんの少しの隠し事が、ほんの少しの自己満足が、タイミング悪くが重なって起きてしまった事件が遣る瀬無い。
でも、二人の関係に関してはその苦さを緩和してくれ甘さがあった。何ですか小佐内さん、思わずニヤけそうな思い出語りからのズルい殺し文句は。小悪魔だわぁ。
大学生編in京都。小佐内さんの甘味ツアーに付き合わされ、やっぱり事件に遭遇してしまう小鳩君の様子を夢みていいのでしょうか?