いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「桜色の春をこえて」直井章(電撃文庫)

桜色の春をこえて (電撃文庫)
桜色の春をこえて (電撃文庫)

「あたしの家にくればいいよ? それで全て解決でしょ」
高校入学とともに一人暮らしを始めるはずが、手違いにより部屋を失った杏花に救いの手が差し伸べられる。
救い主の名は澄多有住。かわいい名前に反しぱっと見は不良、停学歴アリ。同居を始めても無愛想でわがままで杏花は難儀するが、時折ちょっとした優しさやかわいげが垣間見え……。これってもしかして、ツンデレ
二人の少女が織りなす、同居×青春ストーリー。


親に恵まれず心に傷を持った二人の少女の青春ストーリー。
二人の少女が不器用ながらに友情を育んでいく物語で、男は完全に脇役、百合っ気もほとんどなしと少女小説・少女漫画のような作品(もっと百合百合しい展開を期待していたのは内緒である)
どちらかと言えば物静かな優等生タイプながら意外と感情の浮き沈みの激しい主人公・杏花視点で、彼女の心理描写がとことん丁寧に描かれているのが好印象。ストーリー自体は割と淡々と進むものの、杏花の心理状態が作品の雰囲気に如実に反映されるので、物語にはちゃんと起伏があり様々な色を見せてくれる。
まあ、杏花の生い立ちもありタイトルを『灰色の春をこえて』に変えた方がいいんじゃないかと思うくらい物悲しげでなアンニュイなイメージの方が強いが。
でも、こえた後はちゃんと桜色(時期的にはもう若葉色か)になるので読後感は上々。
ストーリー展開はこれと言って特筆するところのないベタな内容だったが、少女らしい繊細さがよく出た綺麗な作品だった。面白いとか泣けるとか直接的な感動ではなく、春の温かさがじんわり染み入る感じ。


個人的には結構好きなタイプの作品なのだが、電撃文庫のメインターゲット層であろう男子達には少々退屈な話かもしれない。なんで電撃文庫で出したんだろう。メディアワークスに少女文庫のレーベルがないから?