いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「陽炎太陽」綾崎隼(メディアワークス文庫)

陽炎太陽 (メディアワークス文庫)
陽炎太陽 (メディアワークス文庫)

村中から忌み嫌われる転校生、舞原陽凪乃。焦げるような陽射しの下で彼女と心を通わせた響野一颯は、何を犠牲にしてでもその未来を守ると誓うのだが……。
時は流れ、大学生になった一颯は、離れ離れになった彼女の想い出を片隅に残しつつ嶌本和奏と交際を始める。かけがえのない歳月が流れ和奏と共に生きる決意を固めた一颯だったが、ある日、音信不通だった<彼女>が約束通り現れて……。
今そこにある愛と、忘れられるはずもなかった愛。憧憬の「太陽」が焼き尽くす『花鳥風月シリーズ』最新作。


虐めに屈しない勝気な少女と排他的な彼と物静かな彼女のラヴストーリー。
全然違う性格のようで三人はとてもよく似ていた。
それは我慢強さと相手を想う気持ちの強さ。どちらも尊いものだけど、行き過ぎるとひどく切ない。
我慢が過ぎてしまったからこそ壊れてしまった現実に、陽凪乃が弱音を吐いてくれれば、一颯が一人ぼっちの期間に我慢できずにもう一歩踏み込んでいればと思わずにはいられない。和奏にしてももっとわがままになって欲しいと思う場面がいっぱいある。
それに三人共、ひとの幸せはこんなにも願えるのに、そこに自分の幸せが入っていない。その想いの強さに美しいと思う反面、境遇や性格や生い立ち、理由は違えど自分も愛されているということを感じられていないのが悲しいものに映った。
三者三様に心根が清らかで優しかったからこそ遣る瀬無さが募る切なくも美しい物語だった。綾崎さんの綴る物語のこの清らかさがたまらなく好き。最後に一緒になった二人にはもう二度と壊れないよう自分の幸せを掴んでくれるよう切に願う。