いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「スラムオンライン EX」桜坂洋(ハヤカワ文庫JA)

スラムオンラインEX (ハヤカワ文庫JA)
スラムオンラインEX (ハヤカワ文庫JA)

Aボタンをクリック。ぼくはテツオになる――現実への違和感を抱えた大学1年の坂上悦郎は、オンライン対戦格闘ゲーム〈バーサス・タウン〉のカラテ使い・テツオとして、最強の格闘家をめざしていた。大学で知り合った布美子との仲は進展せず、無敵と噂される辻斬りジャックの探索に明け暮れる日々。リアルとバーチャルの狭間で揺れる悦郎はついに最強の敵と対峙するが――
外伝短篇「エキストラ・ラウンド」を加えた新版

本作は2005年に刊行された『スラムオンライン』に短編が追加されたいわゆる新装版。未読だったのでこれを機に購入。



MMO格闘ゲームを描いたこの作品がもう10年近くも前なのか。時代の流れの速さを感じるなあ。
当時はまだFF11でようやくMMOの認知度が上がってきたくらいの時期じゃないだろうか。そんな時期に書かれたものなのに、ネット社会の様子は今読んでも何の違和感もない、むしろ今だからすんなり受け入れられる描写に感心しきり。それでいて、時々アナログでのマッピングなど古くからのゲーマーをクスッとさせる描写が紛れ込んでいるのがにくい。
話は大学入学後、MMO格闘ゲーム・バーサス・タウンにのめり込んだ主人公・悦郎の日常。
学業はおろそかになり、大学で彼女との距離感も上手く掴めないリアルの自分と、ゲーム内で強敵に挑み続けるテツオというキャラクター、それぞれのアイデンティティの狭間で揺れ動く主人公の心情が繊細に描かれる。また、彼が出会う人物たちもリアルとゲームの関係について色々な考え方を披露している。そんな風にリアルとバーチャルの境に重点を置いて書かれているので、どこか哲学的な印象がある。
ところでこの主人公、今だと「廃ゲーマーのくせにリア充とか……爆発しろ!」となるのだけど、当時はどんなふうに評されていたのだろうか。まあ、羨ましいことには変わりはないのだがw 
久しぶりの桜坂だったけど、他作品と変わらずパンチの効いた面白さだった。もう長編は書いてくれないのかなあ。