いつも月夜に本と酒

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「翼の帰る処 番外編 ―君に捧ぐ、花の冠―」妹尾ゆふ子(幻冬舎コミックス)

翼の帰る処 番外編 ―君に捧ぐ、花の冠―
翼の帰る処  番外編 ―君に捧ぐ、花の冠―

出身家・白羊公一族の没落により都を離れ、ヤエトの統べる黒狼公家の領地に身を寄せた尚書官・タナーギン。ヤエトの邸でタナーギンと邂逅した皇妹・ラキニーは、その態度に胡乱な気配を感じ、スーリヤに彼の身辺に侍るよう申し付ける。男はヤエトや皇妹に金の無心をし、不思議な香りに包まれた自宅で隠れるようにして暮らす。飄々としながらも、何がしかの意志を感じさせる彼の行動の目的とは……!?  都の大乱の影に存在した一つの物語を中心に、様々なキャラクターの想いを描き出す、5編のストーリー。

本編中でヤエトが居ないところのエピソードを補完する番外編。
作中で幾度となく意識不明に陥る主人公だったから、こういったこぼれ話はいくらでも出てきそうではあるよね(苦笑)
各話の感想は下で語るとして、
この番外編、ヤエトだけでなく皇女も不在。この事実は、彼女に何かある時は大抵ヤエトが近くにいるか、最低でも気にかけていたことを示しているんじゃないか。なんだかなんだで彼女中心で物事が動いていたんだ、と妄想を逞しくしてしまう。




以下各話毎



窓の外の夜
内容:ヤエトが沙漠越えへと旅立った直後のヤエトの母と妹の会話。
流石はヤエト先生のご家族。面倒くさい性格をしていらっしゃる。
でもこういった自分の想いや感情をストレートに表現しない会話の妙を楽しむのがこのシリーズの醍醐味だ。




幸せを待つ
内容:レイモンドが北嶺から帰った後のルシルとレイモンド
出られない鳥かごならその鳥かごをより良いものにしよう。受け身だった少女がこんな意志を持てるようになったのは、ヤエトのおかげなんだと思うと彼の面倒を背負いこむ癖も捨てたもんじゃないと思える。
本人は「私がやらなくても他の誰かがやっていたでしょう」とか「時期が来ればそうなっていたでしょう」とか言いそうだけど。




剣の誓い
内容:第一皇子と面会にきた第二皇子が待たされている間に彼の伝達官とした会話。
二の君が普通の世間話をしていることに違和感が。あの人、精密機械かなんかでしょ?




君に捧ぐ、花の冠
内容:ヤエトが自失状態の時に起こった黒狼公領で起こった事件の顛末。
タナーギン、スーリヤ、ルーギンの視点が入れ替わりながら語られる本作では珍しい作り。
タナーギン:本編中は「胡散くさい奴。でも悪党ではない」くらいの印象しかなかったが……。不運と苦労ばかりの人生でも、笑顔で逝けた彼は幸せだったのか否か。本人のみぞ知る。
スーリヤ:自分の存在意義に悩む少女。傍から見ると大変可愛らしく思わず抱きしめたくなりそうだが、拒絶されないのは数人だけだろう。
ルーギン:ヤエトも皇女も不在のこの番外編では、このルーギン視点が本編と言って過言ではない。主にルーギンと皇妹の会話が。愛しくも恐ろしい人に対して、この気の利いた軽口。それを許容しつつ鋭く返す皇妹。いやあ面白い。
登場人物達の立場も考え方はバラバラなのに、第一皇子評が全員揃って「無能」なのは笑えばいいのか嘆けばいいのかw




黄昏の底の国
内容:前話のエピローグ。皇妹視点。
前話ののルーギンとの会話でも少し思ってたが、皇妹は意外とヤエトに近い存在なのかも。面倒事を背負いこむ性質において。もちろん彼女の方が何倍も上手く立ち回るのは間違いない。
あ、スーリヤを抱きしめられる人、まだいた。
この話の後にある巻末の人物紹介文がぶっちゃけトークでくっそ面白い。