いつも月夜に本と酒

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「江ノ島西浦写真館」三上延 (光文社文庫)

江ノ島西浦写真館 (光文社文庫)
江ノ島西浦写真館 (光文社文庫)

百年続いた写真館の館主、祖母・西浦富士子の遺品を整理するために、桂木繭は江ノ島を訪れた。かつてプロの写真家を目指していたが、ある出来事がきっかけで、今はカメラを持つことができない繭。懐かしい写真館を訪れ、祖母と親しかった人々と出会うことで、封印していた過去が少しずつ露わになっていく。そして――。写真の謎解きと、人間の過ちと再生を描く物語。

写真館を営んでいた祖母の遺品整理で見つかった未渡しの写真から過去の真実を探る物語。開いていたからと訪れたという青年・真鳥秋孝の家族の秘密、主人公・桂木繭の大学時代の傷の二つを軸に話が進んでいく。
その軸になった二つの過去に関しては、予想外の経緯で、さらにそれを上回る予想外の結末を見せてと、何度も新鮮な驚きがあったので、ミステリとしては面白かった。
ただ、人の機微に触れる話としては琴線に触れるところはなかった。
この話に出てきた人たちは、押しが強いか弱いかの違いはあれど、全員自分勝手だったような気がする。人なんてそんなもんと言われてしまえばそれまでだが、そういう面ばかり見ているのはあまり気持ちのいいものではない。
その筆頭が主人公・繭。
普段はおどおどしているのに専門分野になると饒舌になる主人公。これは栞子さん?と思ったのは一瞬、どうにも彼女からは殊勝さも可愛らしさも感じられない。いきがってた学生時代も落ち着いた今も自分しか見えていない感じがする。
あと、たとえ赤の他人のものでも黒歴史を読むのは、辛くて気持ちのいいものではないなと。
日常ミステリよりも人の機微の方を楽しみにしていたので、合わなくて残念な一冊だった。