いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年」辻村七子(集英社オレンジ文庫)

マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年 (集英社オレンジ文庫)
マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年 (集英社オレンジ文庫)

ノースポール合衆国自治州『キヴィタス』は、1億6千万の人口を収容する人工都市だ。アンドロイド管理局に勤める若きエリート、エルガー・オルトンは、帰り道で登録情報のない“野良アンドロイド”の少年を拾う。ワンと名乗った少年型アンドロイドとエルは不思議な共同生活を始めるが、ワンは記憶を失っていた。彼の過去を探るうち、エルは都市の闇に触れてしまい?

アンドロイドが身近に当たり前にいる世界で、アンドロイドを調整する新米エリート技師エルガー・オルトン博士(エル)と、持ち主のいない野良アンドロイドのワンの出会いから始まる物語。
細部まで考えられ綿密に練られたSFの世界観と、裏の世界の闇が濃くハードボイルドの香り漂うシビアな社会から繰り出される、オシャレかつベタ甘なラブストーリー。このギャップは、ズルい。
この物語の一番の読みどころはエルとワンの日頃のやり取り。
真面目一辺倒で生きてきたゆえに、人間なのに語彙力が拙くて表現がストレートなエルと、アンドロイドなのに洒落や皮肉を交えて切り返してくるワン。言葉の上手さは全然違うのに、見え隠れする親愛の情は同等という、不思議でワクワクしてニヤニヤもしてしまう会話の応酬が楽しくてしょうがない。
そんな言葉を交わす日常の中で、親密度を増していった彼らに待つ別れ。それと同時に語られるエルの秘密の悲劇性が新たなドラマを生む。生んだはずだったんだけど、その後に待っているのがこれかい。切ない気持ち返せw
言葉を変え表現を変え、延々と愛の告白をし合うという「ご馳走さまでした」以外に感想がないベタ甘エピローグで砂糖を吐けそう。「I LOVE YOU」を伝える言葉と方法ってこんなにあるんだなと、変なところで感心してしまった。
とても面白かった。デビュー作といい本作といい、辻村先生にはSFメインで書いてもらいたいと思わずにはいられない。