いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「君と時計と雛の嘘 第四幕」綾崎隼(講談社タイガ)

君と時計と雛の嘘 第四幕 (講談社タイガ)
君と時計と雛の嘘 第四幕 (講談社タイガ)

織原芹愛の死を回避できなければ、杵城綜士は過去へと飛ばされる。その度に「親友や家族が世界から消失する」という大き過ぎる代償をともなって――。無慈悲に繰り返される時間遡行を断ち切るために、綜士と芹愛は『希望と言い切るには残酷に過ぎる、一つの選択肢』の前で苦悩する。鈴鹿雛美がつき続けた嘘と、隠された過去とは……。衝撃のラストが待ち受ける待望の完結篇!

シリーズ最終巻。
だというのに驚くほど静かだった。
千歳先輩というこの物語の核を失うことで、彼らが何度も体験してきた大切な人の喪失という絶望をこれまで以上に感じられるオープニング。やっと動き出したと思ったら相変わらず決定的な一言を言わない雛美へのもどかしさという恒例の感覚。
そんな、これで最後とは思えない程に「いつもの感じ」で進む話に、案の定「千歳先輩が託した手紙に記された内容とは?」に集約していくストーリー。そしてあまりにもサプライズの気配がない物語の先に、痛みはあるものの最も救いが多いエンディングの提示される。
ある程度は納得できるけど、こんな無難な落としどころで終わる物語があるか? でも7〜80ページ残っている。まだ何かあるはずだ。
その後に始まる「プロローグ」は雛美の事実と想いを補完する物語。
しかしこれも知っていることと想像できる範囲のことしか語られない。雛美が思った以上に不器用で綜士とは似た者同士だったんだな、くらいの感想しかなかった。
このまま消化不良で終わってしまうのかと思い始めた「エピローグ」の後半……やられた。
残り数ページという本当に最後の最後でこんなどんでん返しがあるなんて。この隠し方はちょっとズルいと思いつつも、納得せずにはいられない見事などんでん返し。この展開でハッピーエンドは無理だろうという予想は見事に裏切られ、綾崎作品なら最後はハッピーエンドだろうという信頼は裏切られなかった。
タイムリープの仕掛けとみんなの嘘が複雑に絡み合い綺麗に解かれていく、4巻通じて酷く切なく、美しく、なにより面白い物語だった。時間がある時に1巻から読み返そう。