いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「常敗将軍、また敗れる」北条新九郎(HJ文庫)

常敗将軍、また敗れる (HJ文庫)
常敗将軍、また敗れる (HJ文庫)

「貴様はこれまで父ローディアスと二度、長兄シャルクとは一度戦っているはず。そして、どの戦にも負けた」
ティナの声が少し弾んだ。
「しかし、まだ生きている」
世界最強の「ヴァサームントの騎士団」当主の娘、ティナは初陣にて『常敗将軍』と渾名される異端の英雄、ドゥ・ダーカスと出会った。陰謀に満ちた戦乱の世界で破格の生き様を見せる英雄ダーカスと、その姿を追いかけるティナや姫将軍・シャルナら魅力的なキャラクター達が織り成す一大ファンタジー戦記!

第11回HJ文庫大賞《大賞》受賞作



まずはタイトルに負けた。
あらすじみたいな長タイトル全盛の時代に、タイトルだけで読んでみたいと思わされたのは本当に久しぶり。1年前の『スーパーカブ』もタイトル買いだったけど、あれはそのものにパワーがあるから別カテゴリーだろう。
それに、内容でも予想を覆してくれた。
あらすじから少女騎士ティナがメインで話が進んでいくのか思ったら、意外にも将軍ダーカスがメイン。あらゆる戦場を駆け抜けてきた年齢不詳の男が、戦争の現実を説いていく地味な流れ。
常敗将軍としての活躍もそう。戦記ものでは定番の奇策ではなく、戦況に応じて出来ることを着実にこなし、自分の定めたゴールへと向かっていくという、派手さとは無縁の作品だった。
また、大を助ける為に小を捨て、目的のためには多少の犠牲を厭わない冷静な判断も見所で、派手さはないのに血生臭いのも特徴の一つだろう。
それでいて目的と行動の理由が合致した時の爽快感はなかなかのもの。実は壮大な○○劇だったという大枠でのどんでん返しも見事。
ちなみにあらすじでは主役みたいなティナ嬢も、ヒロイン(いやマスコットか?)として可愛らしく描かれていて、ちゃんとライトノベルしてるのがにくい。
突然変におちゃらけたり、雰囲気に合わないネットスラングが入っていたりするマイナス点はあるが、シンプルでキャッチーなタイトルに、血生臭くいぶし銀なストーリー。今の流行に逆行する骨のある作品で、とても面白かった。