いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)

「回帰祭」小林めぐみ(ハヤカワ文庫JA)
回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)

地球の環境汚染から逃れた避難船ダナルーが不時着してから300年。この星では男女が9:1の割合で誕生していた。16歳でカップリングできない男子は全員復興した地球へ回帰する。秀才少年ライカは都市の謎を調べ回り、勝ち気な少女ヒマリは地球に憧れている。そして地球行きを憂う少年アツはヒマリに一目惚れ。そんな3人が出会った喋るウナギは、ダナルーのある秘密を示唆する――揺らぐ心が、閉鎖都市の謎に迫る傑作長篇。

回帰祭が目前に迫る三人の少年少女と反乱分子を追う刑事がそれぞれの視点から閉鎖都市ダナルーの中央システムの謎に迫るSF。


これはアレですね。「食卓にビールを」の廃墟編の超スケールアップ版ですね。これ一冊に色々なものが詰まっていてとても面白い。
メインはアツ、ライカ、ヒマリの少年2少女1の冒険あり恋愛ありのボーイミーツガール。
とにかく会話がいい。初めのうちトゲトゲしてたものが次第に信頼しあっていく感じが会話で分かる。しかもツンデレを二人も抱えているので(ライカは男だけどねw)ニヤニヤ度も高め。また、三人が出会ううなぎ教授との会話はこの作者らしい軽さがあって好き。
一方の刑事ジットの視点は若干ハードボイルド風。定年間近のおっさんの哀愁が若者3人とはまた違う味がある。
そして双方の視点から次々と出てくる事実の断片と不可解な事件、そこに閉鎖空間での鬱屈した人々の精神状態もが加わって謎が謎を呼ぶ展開に引き込まれる。
ただ終盤がちょっと雑な気が。
少年少女と警部が合流してからが展開が急すぎるのとぶつ切りの最後には、そこまで丁寧なのになぜ最後だけ?と言いたい。
それでも約500ページのボリュームに、本格SFであり、ボーイミーツガールであり、閉鎖都市の秘密を暴くミステリであり、微かにホラーでもあるまさにエンターテイメントな一冊。読み応え十分で面白かった。