いつも月夜に本と酒

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「悠久のアンダンテ ―荒野とナツメの物語―」明日香々一(GA文庫)

悠久のアンダンテ -荒野とナツメの物語- (GA文庫)
悠久のアンダンテ -荒野とナツメの物語- (GA文庫)

隊商が全滅した夜、幼い少女はただ一人生き残った。命を助けてくれたのは、巨大な剣を手にした青年アベル。しかし、人間では太刀打ちできない生物――蟲をたやすく屠る彼との邂逅は短いものにすぎなかった。
過酷な荒野の旅を辛うじて生き残ったナツメはやがて成長し、再びアベルと出会う。だが、彼女の前に現れたのは、あの夜と寸分も変わっていない青年だった。
記憶もなく老いることもなく、ただひとつ残された使命感とともに、ひたすら荒野を巡り蟲を狩り続けるアベル。彼に秘められた謎とは一体なんなのか。そしてアベルとの再会が、ナツメにもたらすものとは――!?


惜しいと言うかもったいないと言うか。
ナツメ視点で淡々と綴られていく世界。パッと数年経ってしまう駆け足展開とは思えないほどナツメにはゆったりと穏やかな空気が流れていて、それがなんとも心地いい。また、ナツメが自分の恋心に気付いてからはニヤニヤ度も高めで、穏やかな空気も相まって幸せな気分が味わえる。
しかし後半、物語が世界の核心に触れると流れが変わってしまう。
急なアベルorマリア視点メインへの移行とそれまで以上の駆け足展開でナツメが蔑ろになってしまうのと、威厳を持つべき存在のアベルとマリアの口調の軽さが気になり、世界観もキャラクターも薄っぺらいものに見えてしまう。
終章にはナツメ視点が戻ってきたこともあり読後感も悪くないだけに、盛り上がるべき三、四章の軽さが残念でならない。
それでも基本的には心温まる良質ファンタジーだった。この雰囲気を味わえただけでも割と満足。