いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「そして、誰もが嘘をつく」水鏡希人(電撃文庫)

そして、誰もが嘘をつく (電撃文庫)
そして、誰もが嘘をつく (電撃文庫)

巨大な豪華飛行客船「ティターン」号に乗り込む不思議な少年・アデルベールとその小さな相棒・ティッカ。
 その船には、世界を股にかける冒険商人、妖艶な女優、美しい謎の女性とその同行者である新聞記者、莫大な財力を誇る侯爵家など、個性豊かな人々が乗り合わせており皆、旅を楽しんでいるかに見えた。アデルベールも船で知り合った侯爵家の令嬢・リラとの船旅に心躍らせていたが、世間を騒がす怪盗セニンから“青いダイヤをいただく”という犯行予告が届き旅の空気は一変!? そして──。


豪華飛行客船での空の冒険、怪盗もののミステリ、退魔ファンタジー社交界の人間模様、そしてボーイミーツガール。色々なものを詰め込んだ大ボリュームでエンターテインメントな一冊。
あらすじで冒険+ミステリだと思って読み始めたので、悪霊が出てきたときには面食らったが、これはなかなか良いあらすじ詐欺。詰め込みすぎは不完全燃焼で終わるものが多い中、それに見合ったボリューム(450頁)で、どの要素も不足なく丁寧に書かれているので読み応え十分。
特に上手いと思ったのはキャラ作り。主人公を含め誰もがどこかに影が見え、誰がどんな嘘をついているのかというミステリ的な楽しみが味わえる。一方で、悪役はとことん悪役らしく。冒険ものやボーイミーツガールとしては、彼らが倒されることで最後にスカッとした読後感が味わえる。
一つ残念なのが怪盗セニンがただの子悪党だったこと。怪盗は紳士かつ完璧超人であってほしかった。
デビュー作以降が微妙だった作者の作品だったが、今作は面白かった。