いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「エスケヱプ・スピヰド」九丘望(電撃文庫)

エスケヱプ・スピヰド (電撃文庫)
エスケヱプ・スピヰド (電撃文庫)

昭和一○一年夏。極東の島国《八洲(やしま)》は、二十年前の戦争で壊滅状態にあった。廃墟の町《尽天(じんてん)》では、シェルターの冷凍睡眠から目覚めた人々が、暴走した戦闘機械の脅威にさらされながら生きていた。
尽天で目覚めた少女・叶葉(かなは)はある日、戦闘機械から逃れる最中、棺で眠る奇妙な少年と、一匹の巨大な《蜂》に出会う。命令が無いと動くことができないという少年に、叶葉は自分を助けるよう頼む。それは、少女と少年が“主従関係の契約”を結んだ瞬間だった──。
少年の名は、金翅(きんし)の九曜(くよう)。《蜂》と少年は、《鬼虫(きちゅう)》と呼ばれる、八洲軍が技術を結集して製造した超高性能戦略兵器であった。叶葉を暫定司令官と認め、共に戦い、彼女を守ることを誓う九曜。しかし、兵器であるがゆえに、彼には人の感情が存在しなかった。叶葉はそんな九曜を一人の人間として扱い、交流していく。
徐々に心を持ち始める九曜だったが、平穏な日々は、九曜と同じ鬼虫である《蜻蛉》四天(してん)の竜胆(りんどう)の飛来によって打ち砕かれ──!?
閉じられた町を舞台に、兵器の少年と人間の少女の出会いを描くノンストップ・アクション! 

第18回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作。(↑あらすじは解りやすいネットのものを採用)



面白かった。これぞライトノベルの大賞作品といった趣の作品。
終戦後二十年、天涯孤独な少女・叶葉と元人間で戦争当時最強兵器の一角だった少年・九曜の交流を軸に、廃墟でたくましく生きる人たちの生活と、彼らを苦しめる戦争の遺産を巡る物語。
初めのうちは見慣れぬ漢字(主に軍関係)の多さと時代背景の不透明さでとっつきにくい感じがあるのだが、そこで描かれているものはあくまで人。その人間ドラマが面白くていつのまにやら惹きつけられる。
前半は九曜の変化が見どころ。人間味のない行動ばかりの九曜が、叶葉や周りの人たちとの交流の中で、戸惑いながらも感情を獲得していく様子が それに対する周りの反応も温かい。
後半は最大の敵・竜胆との対戦がメインではあるが、ここでも軸になるのは人の想い。
九曜が戦いに徹するために一度閉じ込めてしまった感情を、叶葉の決死の行動に感化されて取戻し、過去の仲間の言葉を思い出して本当の強さを手に入れていく展開に胸が熱くなる。また、頑なな九曜を動かす叶葉のひたむきに彼を想う言葉に涙に、何度心を揺さぶられたことか。
……そういえば、時代背景は最後まで分からなかったな(^^;
八洲という国はいったい何と戦っていたのか。なぜ戦争は終わったのか。負けたような状態だが戦勝国の統治や侵略者が入っていないのはなぜか。その辺りがはっきりしないので無理やり作った舞台のような気がしてしまうのが残念。
続きは二人の旅路を描く話になるのかな。