いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「路地裏のあやかしたち3 綾櫛横丁加納表具店」行田尚希(メディアワークス文庫)

路地裏のあやかしたち (3) 綾櫛横丁加納表具店 (メディアワークス文庫)
路地裏のあやかしたち (3) 綾櫛横丁加納表具店 (メディアワークス文庫)

路地裏にひっそりと佇む、加納表具店。店を営むのは、若く美しい環。掛け軸や屏風に込められた思念を鎮める仕事を引き受けている彼女のもとには、様々な事情を抱えた妖怪が相談を持ち込んでくる。
今回登場するのは、音痴なのにミュージシャンををめざす〈鵺〉、弁護士として働く〈天邪鬼〉、そして〈雪女〉の蓮華。彼らの切ない物語に触れ合ううちに、高校生・洸之介は将来の進路を深く考えるようになる――。
人間と妖怪が織りなす、ほろ苦くも微笑ましい、どこか懐かしい不思議な物語。多くの読者に愛されたシリーズも、これにて完結!!

表具店を舞台にした、平凡な少年と気さくで人間臭い妖怪たちの日常を描いた短編連作第三弾。最終巻。
今回は、いつものように妖怪と掛軸にまつわる心温まる短編がありつつ、高校三年生になった洸之介が進路に悩む話が物語全体の大きな流れとなっている。



洸之介、成長したなあ。
1巻の頃は、思考が卑屈でネガティブで「主人公がこいつじゃなかったらもっと面白いのに」とまで思ったりもしたのに。進路に悩む様子は相変わらず踏ん切りは悪いけど、ネガティブ思考だけじゃなく前向きな考えも持てていたし、後ろ向きな理由も優しさから来ているもので、しっかり自分の意思がある。1巻の頃の彼ならただ流されるだけで決めていただろう。
そんな悩める少年の道筋を照らすのが、各話妖怪たち。指針にしようとする人生の先輩が妖怪たちというのが、妖怪がとことん人間臭いこのシリーズらしくていい。
旅立ちという定番中の定番のラストでも、「行ってらっしゃい」「行ってきます!」のその後に確かな「ただいま」「お帰りなさい」が見えるラストに、清々しい気持ちでいっぱいで大満足。
1巻からあった人情味を損なうことなく、主人公・洸之介のしっかりとした成長を見せてくれたシリーズ。面白かった。作者の次回作にも期待。