いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「明日の子供たち」有川浩(幻冬舎)

明日の子供たち
明日の子供たち

想いがつらなり響く時、昨日と違う明日が待っている! 児童養護施設を舞台に繰り広げられるドラマティック長篇。
三田村慎平・やる気は人一倍の新任職員
和泉和恵・愛想はないが涙もろい3年目
猪俣吉行・理論派の熱血ベテラン
谷村奏子・聞き分けのよい“問題のない子供”16歳
平田久志・大人より大人びている17歳


ドラマになりそうな「かわいそう」な子供の境遇ではなく、あくまで児童養護施設の今を切り取っているのが有川さんらしい。その「かわいそう」に対して、子供の言葉でガツンとやって問題提議と物語へと引き込むことを同時にやってしまうのが上手いよなあ。
でも「かわいそう」が駄目だとは思わないのは、自分が恵まれているからだろうか。三田村(主人公)だってそれがきっかけで入ってきたわけだし。偽善かどうかはする側でなく受ける側の心持ち次第なので何とも言えないが、取っ掛かりとしては有りなのではないかと。これも三田村が気付けなかった問題点、無自覚な上から目線になってしまうかな? 難しい。……おっと、脱線した。
そんな、いきなり脱線してしまうほど重く難しい色々と考えさせられるテーマでも、いつもの読みやすさと爽快な読後感は健在。もちろん甘味と泣かせるシーンも。
甘味の方は大人と子供の二組。大人の方で思わせぶりな言動をさせてからの、子供組の不意打ちがにくい。頑張る男の子というのは、どんなジャンルでもラブを盛り上げてくれる。
泣かせるのはラスト……と言いたいところだが、ある卒業生のエピソードがずるい。散々脅しておいて、ホッとさせたところに中年男性の涙は貰い泣きの回避は不可能だ。
そんな風に笑いあり涙あり、そして大団円と爽快な気分で読み終わったのだが、重い話なのに大団円ということで、「こんなに上手くはいかないだろう」「綺麗すぎる」というシーンがいくつか出てくるのは少々気になる。でも、上手くいくビジョンを示すというのは、フィクションだからこそ出来る訴える手段の一つなのかもしれない。
ところで、自衛隊、県庁の変わり種部門、児童養護施設と、世間の認知度が低く、しかも偏見を持たれていそうなところに風穴を開けていくのが有川先生の信念の一つなのかな? なんて思いながら読んで最後(参考文献等含む)まで行ったら……そうか、勇気ある可愛い仕掛け人がいたのか。
その心意気に対する答えがこれかと思うと、作中の言葉にもう一段重みが増した様な気がする。
……でも、その隣の取材協力「神戸夫人同情会」というネーミングセンスには思わず苦笑。