いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「いなくなれ、群青」河野裕(新潮文庫nex)

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)
いなくなれ、群青 (新潮文庫)

11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。誰よりも真っ直ぐで、正しく、凛々しい少女、真辺由宇。あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。奇妙な島。連続落書き事件。そこに秘められた謎…。僕はどうして、ここにいるのか。彼女はなぜ、ここに来たのか。やがて明かされる真相は、僕らの青春に残酷な現実を突きつける。「階段島」シリーズ、開幕。


階段島=気付いたらそこに居て、来る直前の記憶が無く、船等の手段では島の外には出られず、失くしたものを見つけ出せば島から出ていけるという。島民は心のどこかに傷があり、一人の魔女が管理していると言われている。そんな不思議な島を舞台にした青春ミステリ。


……相変わらず内容も、感じたものも、言葉で説明するのが難しい作家さんだ。
とりあえず不思議で繊細な透明感のある文章が素敵。その一番大切な部分は期待通りの河野裕作品。
舞台となる「階段島」は、デビュー作「サクラダリセット」の舞台よりもさらに夢の中の様な雰囲気を持つため、青春ミステリというより現代ファンタジーといった方が近い。
それでも、青春は濃かった。
メインとなる二人を含めた高校生たちは若者らしい高潔さがこれでもかと出ていたし、階段島が持つ地に足のついていない不安感と若者の不安定さを掛け合わせて「綺麗だけど危うい」が表現されている。中盤は主人公・七草が秘密にしているものが多すぎて冗長な部分もあるが、彼がアクティブに動きだし階段島の存在に話が及び始めると、話に一気に引き込まれる。
理想を追い求めて他者を傷つけることに気付かないヒロイン・真辺を非難しながら、一番の理想論者は君じゃないか。やられたなあ。
綺麗に終わっているような気がするが、あらすじにはシリーズ、開幕とある。真辺の最後の宣言が暴走するのか、大地君の問題を解決するのか、はたまた別の登場人物でやるのか。続刊を待つ。