いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「螺旋時空のラビリンス」辻村七子(集英社オレンジ文庫)

螺旋時空のラビリンス (集英社オレンジ文庫)
螺旋時空のラビリンス (集英社オレンジ文庫)

時間遡行機“アリスの鏡”が開発された近未来。喪われた美術品を過去から盗み出す泥棒のルフは、至宝インペリアル・イースターエッグを盗み19世紀パリに逃亡した幼馴染・フォースを連れ戻すことに。だが彼女は高級娼婦“椿姫”マリーになりすまし、しかも不治の病を患っていた。頑なに帰還を拒否する彼女が秘めた真意とは!? 時の迷宮に惑うタイムループミステリー!!

SFでラブロマンスなのに、なんであらすじがミステリーになっているんだろう?(^^;




同じ三年間をループするタイムリープもののSFであるが、細部まで作り込んだがっちりとしたSFではなく、タイムリープをあくまでラブロマンスの魅力を引き立てる舞台装置として最大限に利用しているのが特長。この言い方は語弊があるかもしれないが、ボロが出ない程度に上手くぼかしたなと。四十数名のドッペンルゲンガーなんて真面目に考え出したら、どうやってもそっちがメインになってしまうもの。
物語は主人公ルフとマリー(フォース)による1,2周目の全く噛み合わない会話からスタートし、何周ものループの中で、マリーの真意やルフ達を雇う会社の秘密、ループを繰り返すルフの精神状態など、いくつもの要素が少しずつ糸が解ける様に分かっていく/変わっていく展開が見事。
気付けば、ルフのメインの目的が仕事の完遂から幼馴染みの救出へと変わっている。そして何度も上書きされ書き換えられてきた記憶の中から真実の愛だけを掴みとる極上のラブロマンスへ……。
さらに、人のエゴや理不尽と戦ってきたとは思えないほど爽やかで美しいラストシーンで、最高の読後感まで味わえた。
とても良かった。