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「絵本作家・百灯瀬七姫のおとぎ事件ノート」喜多南(宝島社文庫)

絵本作家・百灯瀬七姫のおとぎ事件ノート (宝島社文庫)
絵本作家・百灯瀬七姫のおとぎ事件ノート (宝島社文庫)

クラス委員である園川智三は、5月に入っても不登校を続ける級友・百灯瀬七姫の家を訪れる。彼を迎えたのは、どこか浮き世離れした雰囲気の小柄な少女だった。彼女が「何者」なのか言い当てられれば、学校に出てきてくれると言うのだが…。絵本作家で童話マニアの不思議少女と、彼女に振り回されるおせっかいな少年が織りなす、メルヘンとメンヘルがいっぱい詰まった青春ミステリー!


引き籠りの女子高生絵本作家が、クラス委員の主人公が持ち込んでくる学校での事件を、童話になぞらえて解決していく安楽椅子探偵もの。
童話と言っても子供が読む絵本ではなく、血生臭い描写あり性的描写ありの原作、所謂『本当は怖いグリム童話*1の方。
その所為もあるのか、日常ミステリでありながら扱う事件は結構ヘビィ。でも、百灯瀬七姫の浮世離れした容姿と喋り方と、どこか犬っぽいイメージを起こさせる主人公園川智三のコンビはコミカルで、事件の割にはサクサク読めるのがいい。
ミステリとしては、一話が伏線の張り方やミスリードの仕方がいい塩梅で良かった。ただ、その後は主人公が動く動機が弱いのと、どれもヒントを出しすぎな感がある。特に最後の事件は衝撃の結末が用意されていたのに、その前にヒントを出しすぎてインパクトが薄くなってしまったのが残念。
それでも、主人公が女の子にいいとこ見せたくて頑張る青春ものの要素と、噛み合っているようないないような絶妙な加減の二人の会話が面白く、童話の薀蓄小説の一面もあるので十分に楽しめる一冊だった。

*1:ググってみたら『本当は怖いグリム童話』の初版が2001年1月。もう15年も前!? 時の流れって怖いわー