いつも月夜に本と酒

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「筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。」谷春慶(宝島社文庫)

筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 (宝島社文庫)
筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 (宝島社文庫)

祖父が残した謎を解き明かすべく、美咲は大学一の有名人、東雲清一郎を尋ねるが、噂に違わぬ変人で……。著名な書道家なのに文字を書かず、端正な顔立ちから放たれるのはシビアな毒舌。挫けそうになるも、どうにか清一郎を説得。鑑定に持ち込むが――「気持ちに嘘はつけても。文字は偽れない。本当にいいんだな?」 鎌倉を舞台に巻き起こる文字と書、人にまつわる4つの事件を描く、連作短編ミステリー。

書かれた文字から書いた人の性格やその時の心情を読み解くことができる「書の天才」東雲清一郎の物語。
筆跡鑑定人という単語から科学的な仕事内容が入ってくるのを想像していたら、完全に天賦の才の領域で少し驚いた。でも、謎を紐解く取っ掛かりが変化球なだけで、話はよくある日常ミステリ風で読みやすい。
あとは全四話あるが奇数話と偶数話で話の印象の差が激しい。
奇数話は老夫婦の関係(第一話)や父と息子の確執(第三話)の家族愛をテーマにした話で心温まるいい話。どちらも一度不穏な空気を漂わせてからハッピーエンドに持っていく下げて上げる構成が上手くて、心地いい読後感。
一方で偶数話は人間の汚い部分やいやらしい部分を前面に押し出した話で、あまり後味はよろしくない。
前作もそうだったけど、この作者クズ男好き過ぎだろう(苦笑)
クズ男が出てくるのは別に構わないのだけど、他人に迷惑かけているのに「しょうがない」の一言でお咎めなしで流してしまうからモヤッとしたものが残るんだよなあ。それでいて女性には厳しいもなんだかなあ。今回はクズ男が主人公じゃなかったのが救いか。
主人公のおっとり少女・美咲とツンデレ男子な東雲清一郎の掛け合いが楽しくサクッと読める面白さがあった一方で、不快を感じるラインや人の性格の好き嫌いなど、作者と相容れないものを感じる作品だった。