いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「宝石商リチャード氏の謎鑑定」辻村七子(集英社オレンジ文庫)

宝石商リチャード氏の謎鑑定 (集英社オレンジ文庫)
宝石商リチャード氏の謎鑑定 (集英社オレンジ文庫)

酔っ払いに絡まれる美貌の外国人・リチャード氏を助けた正義。彼が国内外に顧客をもつ敏腕宝石商と知り、誰にも言えない曰くつきのピンク・サファイアの鑑定を依頼する。祖母が死ぬまで守っていたその宝石が秘めた切ない“謎”がリチャード氏により解かれるとき、正義の心に甦るのは……?
美しく輝く宝石に宿る人の心の謎を鮮やかに解き明かすジュエル・ミステリー!!


『螺旋時空のラビリンス』で鮮烈なデビューを飾った辻村七子さんの二作目。
あらすじのジュエル・ミステリーの文字が不安だったが、読んでみたら普通に宝石にまつわる人情話じゃないか。
この手の話にミステリと銘打つの本気で止めた方が良いと思う。日常ミステリもどき作品が食傷気味で、あらすじや帯に「ミステリー」とあるだけで買う気が減退する人は私以外にも結構いるはず。
……という本作に関係ない毎度の愚痴はおしまいにして中身の話をしよう。



正義感が強くて自分の発言への注意力が足りない大学生・中田正義が、絶世の美人(男性)の宝石商を酔っ払いから助けたことから始まる、宝石商の物語。
正義くんのおバカさ加減やリチャード氏のシャイな一面などが楽しくキャラクター小説としても申し分ないが、本題である宝石の扱い方の方に目が行く。
宝石にまつわるドラマチックな悲話は現実世界にも数多くあるし、身近な話題としても相続や窃盗など、どうしてもお金が絡むことなので良いイメージがないけれど、本作で描かれる宝石と人はとても純粋。単純に見て綺麗だとか、持っているだけで幸せな気分になるとか、宝石が本来持つべき姿が見えてくる。そして、その石に込められた想いを軸にした物語は、時に想いを受け止めすぎたり時に間違って受け止めたりと、すれ違いを繰り返す複雑な人間ドラマで読み応え十分。
また、そのドラマをドラマチックにする為に宝石の薀蓄がふんだんに散りばめられているので、演出に感心すると同時に知的好奇心もくすぐられた。
デビュー作のような大作感と驚きは無かったけれど、作者の力量はしっかりと感じられる作品で、とても楽しい読書時間だった。