いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ブランコ乗りのサン=テグジュペリ」紅玉いづき(角川文庫)

ブランコ乗りのサン=テグジュペリ (角川文庫)
ブランコ乗りのサン=テグジュペリ (角川文庫)

首都を襲った天災から長い時が過ぎた。震災復興の名目で湾岸地域へ誘致された大規模なカジノ特区には、客寄せに作られた少女サーカス団がある。そこで古き文学者の名を戴き、花形の演目を任されるのは、曲芸学校をトップで卒業した精鋭のみ。ところがある日、8代目サン=テグジュペリこと片岡涙海が練習中に空中ブランコから落下。身代わりで舞台に立ったのは、天才の姉とは姿だけがそっくりの、双子の妹・愛涙で……。

状況は色々と特殊だが宝塚歌劇団のサーカス版をイメージすれば大きく外れることはないだろう。その少女サーカス団の花形曲芸子を目指し、夢を掴みとった少女たちの物語。
と書くと、華々しい世界の裏で繰り広げられる努力や友情の物語を想像するが、この物語で一番よく見えるのは突出した者への妬み、怒り、怨み。スターの座を掴みとった3人の少女の覚悟は尊く美しいものだったのは間違いないのだけれど、それ以上に尖がり過ぎていて怖いと感じた。いや彼女たちではなく、そうならないと這い上がれず、這い上がった後もあらゆるところから引き摺りおろしにくる世界が怖いのか。
作者の作品は女性の怖い一面が見える作品が多いが、中でも少女だけの世界を描いた作品(5年ほど前の作品『ガーデン・ロスト』がそうだった記憶がある)は、少女たちの悪意が強烈だ。
4人の少女たちの生き様を見せつけてくる作品でとても面白かった。でも、女の子に夢を持っていたい年頃の男の子には読ませられない。