いつも月夜に本と酒

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「明治あやかし新聞 怠惰な記者の裏稼業」さとみ桜(メディアワークス文庫)

明治あやかし新聞 怠惰な記者の裏稼業 (メディアワークス文庫)
明治あやかし新聞 怠惰な記者の裏稼業 (メディアワークス文庫)

日がな一日サロンで惰眠を貪る日陽新聞社の記者、久馬。そんな彼も好奇心が疼けば記事を書く。傍に用意するのは、怪談奇談に妖怪本。彼が書く記事は全て妖怪にまつわるものなのだ。
ある春の日、少女が新聞社へ乗り込んできた。彼女の名は香澄。久馬の記事が原因で、友人が奉公先を追い出されたのだという。冷たい対応の久馬に代わり香澄に声を掛けたのは、妖美な男・艶煙。曰く、むしろ妖怪記事は人助けになっており、友人は貞操の危機を免れたのだというが!?

第23回電撃小説大賞《銀賞》受賞。
舞台は明治初期。妖怪絡みの事件を陰ながら解決する新聞記者と仲間の役者の物語。



気持ちのいい勧善懲悪の物語だった。
それまでの身分制度が色濃く残る時代に、普通は泣き寝入りするしかない上の立場の人間の悪事を暴き懲らしめる構図は、時代劇に通ずるものがある。勧善懲悪と判官贔屓は日本人の心(暴論)
そして、その懲らしめる方法がこの作品の最大の特長。
それが妖怪。まだまだ信心深い世の中で、記者の久馬が怪異を絡めた筋書きを立て、役者の艶煙が演じて相手を脅かし怖がらせる。その鮮やかなやり口と偉そうな悪者が怖がっている絵面が実に痛快。また、妖怪の所為にすることが被害者や依頼者の今後の身を守ることにも繋がっていて、各事件の終わりが後腐れのない清々しいものになっている。
それに、この妖怪の使い方が多くの妖怪の成り立ち(昔の人が得体のしれない事柄や現象に対して名前を付けて怖さを軽減し、それが伝わったとされるものが多いという説)に通じるものがあるような気がして、妙に感心してしまうところも。
気になる点としては、登場人物たちの考え方や価値観が明治のそれじゃないだろうと違和感を感じる場面が結構あるところ。妖怪を信じる下地とか、この妖怪の使い方をするには明治の世はピッタリなのが悩ましい。
妖怪に勧善懲悪にと好きな要素が多かったことに加えて、どの事件も読後感がとても良く、楽しい読書時間だった。