いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「トリア・ルーセントが人間になるまで」三田千恵(ファミ通文庫)

トリア・ルーセントが人間になるまで (ファミ通文庫)
トリア・ルーセントが人間になるまで (ファミ通文庫)

病に伏した父を治す秘薬を手に入れるため、兄の特命によりサルバドールとの取引に臨んだジンドランの第二王子ランス。そこに現れたのは、抜けるような白い肌と銀色の髪、深く青い瞳を持つ美しい少女トリア・ルーセントだった。自らを「薬」と名乗る彼女とともに王都マキシムを目指すランスだが、トリアの護衛であるロサに「トリアに恋をさせて欲しい」と懇願され――!? その身に救済を宿した少女トリアと小国の王子が辿る、ドラマチックファンタジー開幕。

純ファンタジーな世界で織り成す、「薬」として感情を殺して育てられた少女と妾子の第二王子のボーイミーツガール。
無感動無感情の人形のような少女が優しい少年との旅路で人間らしさを取り戻していく話で、その過程のエピソードと自らの身体が薬というルーセントという存在の悲劇性が上手くマッチした切なさが胸を打つ。また少年の方も、家族に愛されていないわけではないものの、妾の子というレッテルに苦しみくすぶっていた心が、彼女との触れ合いの中で癒やされていく。
そんな少年には投げやりだった自分の人生を考え直す気力が、少女には生きる気力が生まれる、優しさに溢れた物語なっていて実に自分好みだった。
ただ、その二人だけを見ればとてもいい話なのだけど、ファンタジー小説としてはあまり上手くないかなと。
話の核となるルーセントという存在と、国の成り立ちや近隣諸国との関係など世界に対する設定は事細かに考えられている反面、実際に旅する三人に起こる出来事が世界観の作り込みに比べると安っぽい感じがするのと、全体を通して極めて単調。情報は漏れているのに何故か単発な刺客の襲撃や狡猾さ皆無の野盗など、世界の厳しさを表現するところが特に中途半端で、単調になってしまった最大の原因か。
このちぐはぐさがなければ感動が二倍にも三倍にもなったのにと、もったいないと感じもどかしい思いのする作品だった。