ある秘密を抱えた月ヶ瀬和希は、知り合いのいない環境を求め離島の采岐島高校に進学した。
采岐島には「神隠しの入り江」と呼ばれる場所があり、夏の初め、和希は神隠しの入り江で少女が倒れているのを発見する。病院で意識をとり戻した少女の名は七緒、16歳。そして、身元不明。入り江で七緒がつぶやいた「1974年」という言葉は? 感動のボーイ・ミーツ・ガール!
ある理由から離島の高校に通い出した少年と、タイムスリップしてきたその島の過去の少女が出会うボーイ・ミーツ・ガール。
好みのど真ん中。ドンピシャのストライクでした。
現代の少年・和希と過去の少女・七緒。それぞれの心の傷によって刺す影と、自分よりも誰かを大事にしてしまう優しさが作り出すやや暗めで静かな雰囲気がまず好みで、逃避行とは少し違うが、お互いに「逃げている」という自覚がある中での出会いと共感で、和希が惹かれていく様子が丁寧に描かれているのがとても良い。
また、タイムスリップものながら二人の問題はあくまで現実的で、かつ身につまされる問題で彼らの痛みを感じやすくなっている点、そしてタイムスリップの仕掛け=時間という大きな壁を目一杯使った切ないラストシーンと、後半は涙腺を襲うシーンが目白押し。
と、どの要素も素晴らしかったのだけど、その中で唯一心残りなのが、ボーイ・ミーツ・ガールなのにガール=七緒の出番が思いの外少なかったこと。女性キャラでは委員長のたまきの方が印象に残るくらい。まあ、彼女の場合はちょっと意味が違うけど。せめて残される和希の為にも、二人だけの楽しい思い出があって欲しかった。楽しい思い出には高津さんだったりクラスメイトだったり必ず誰かがそばにいる状態なので。……うんまあ、求めすぎなのは分かってる。これは和希の物語だし、尺もあるし。でも他が理想に近かっただけにね……
「切なく爽やかなBoy meets Girl!」の謳い文句がぴったりの切なさと優しさが胸を打つ、極上の『ひと夏の思い出』の物語。素晴らしかった。