いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「図書迷宮」十字静(MF文庫J)

図書迷宮 (MF文庫J)
図書迷宮 (MF文庫J)

あなたは思い出さなければなりません。心的外傷の奥に潜む父の仇を探し出し、奪われた名誉と失った魔法を取り戻すのです。吸血鬼の真祖の少女、アルテリアと共に。そのために図書館都市を訪れ、ありとあらゆる本が存在する図書迷宮に足を踏み入れたのですから。あなたには一つの大きな障害があります。あなたの記憶は八時間しか保ちません。ですが、方法はあります。確かにあるのです。
足掻いてください、あなたが人間足りうるために。全ての記憶を取り返すために。
第十回MF文庫Jライトノベル新人賞、三次選考通過の問題作、ここに刊行――。

MF文庫Jでは見たことがない厚さに度肝を抜かれたが、中身もその外見に負けないパワフルな物語だった。
おびただしい図書と地下迷宮と銀髪紅眼のクラシックな吸血鬼幼女が織りなすダークファンタジーな世界観と、頭脳戦と派手さの両方兼ね備えた魔導書を使ったアクションで読むものを惹きつけ、後半はメタフィクション叙述トリックのオンパレードで、状況が二転三転どころではなく変わり続ける怒涛の展開で息つく暇を与えてくれない。それを約500ページ余すことなく書ききった、大作と呼ぶにふさわしい作品。
特に思惑と思考が嘘が入り乱れるバトルと、単純明快な着地地点は『ノーゲーム・ノーライフ』が好きな読者なら大半は気に入るだろう。
但し、そこに辿り着くまでに、沢山の伏線張りとそれを紛らわせる為のさらに沢山のミスリードが用意されているため、描写がくどく感じることが多いのが玉に瑕。あとは単純に、常に頭を使わされるタイプの作品でこのボリュームは流石に疲れる。
例えるなら、鉄板の上でジュージューいっている分厚いステーキ。昔なら喜んで食べたけど、今はボリューミーで脂っこくておっさんにはきついわ(苦笑)
でも、この規格外の作品を3年かかっても刊行にこぎつけるだけの度量がMF文庫Jにまだあったことは素直に嬉しい。