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「86―エイティシックス― Ep.3 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント― 〈下〉」安里アサト(電撃文庫)

86―エイティシックス―Ep.3 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―〈下〉 (電撃文庫)
86―エイティシックス―Ep.3 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―〈下〉 (電撃文庫)

敵〈レギオン〉の電磁加速砲(レールガン)による数百キロ彼方からの攻撃は、シンのいたギアーデ連邦軍の前線に壊滅的被害を与え、レーナが残るサンマグノリア共和国の最終防衛線を吹き飛ばした。
進退極まったギアーデ連邦軍は、1つの結論を出す。それはシンたち「エイティシックス」の面々を《槍の穂先》(スピアヘッド)として、電磁加速砲搭載型〈レギオン〉の懐に――敵陣のド真ん中に突撃させるという、もはや作戦とは言えぬ作戦だった。
だがその渦中にあって、シンは深い苦しみの中にあった。「兄」を倒し、共和国からも解放されたはず。それなのに。
待望のEp.3、《ギアーデ連邦編》後編。
なぜ戦う。“死神”は。
何のために。誰のために。

戦場でのシンとレーナの久しぶりで初めてのコンタクト。
ああ、このワンシーンを読むために上下巻の600ページ余りは存在していたんだ。と、勝手に結論付けてしまうくらいに300ページの挿絵からの二人の会話で満たされてしまった。最高でした。
下巻は激しい戦況の傍らで、生きるという事に追いつめられていくシンの様子が刻々と描かれていく話だった。誰かの所為にしないと自分の心を守れない人の弱さが、無垢な疑問が、共和国滅亡の知らせが、仲間たちの励ましと正論が、何より何も持たない自分自身が、シン本人を追いつめていく。そんな読んでいるだけで溺れそうな息苦しさから、彼を救い出した出会いと言葉に感動しないわけがない。レーナの真っ直ぐさと情熱は1巻の時と変わらず、いやあの時よりも眩しさを増していた。
この時、レーナの言葉に救われたシンと同様に、レーナもシンの言葉にきっと救われたはずなので、この時のレーナの心情が語られる機会が来るといいのだが。
〈レギオン〉との激しい戦況の方は、800mmレールガンに超低空飛行巨大輸送艇にと、男の子をワクワクさせてくれる要素テンコ盛り。ロボと銃火器で派手な戦闘シーンで熱くさせてくれると同時に、シンや仲間たちだけでなく相手のキリヤの心情も丁寧に描いてくれるところが嬉しい。
ただ、以前の様なひりつく様な緊張感がないのが残念。まあ、1巻のラストシーンで全員生存が確定してしまっているから仕方のないことなのだけど。生存率1%未満であるはずの作戦で、誰も死なないのが分かっているのは大きな枷になってしまったところはある。
あとがきによると次こそライトな話だそうで。これはシンを巡ってレーナ、クレナ、フレデリカが火花を散らすラブコメパートに突入……しそうにないな。それはそれで読んでみたいけれど。次も普通に人類存亡を懸けた戦いをしてそうな気がする。