いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「カネは敗者のまわりもの」玖城ナギ(富士見ファンタジア文庫)

カネは敗者のまわりもの (ファンタジア文庫)
カネは敗者のまわりもの (ファンタジア文庫)

金額次第で超常現象さえも買える悪魔のカネ《魔石通貨》。その争奪戦『取引』に明け暮れる高校生、失井敗斗は「ますたーが望むのであれば、えっちなことをされても……」戦利品として手に入れた『資産』の少女、メリアの所有者となる。カネ至上主義の敗斗は仰くメリアを売り払おうとしたり、命がけの『取引』に利用したり、非道な扱いをするのだが……。メリアが宿す秘密が暴かれ、世界の標的となったとき「買い付ける。未来永劫メリアを奪おうと思えなくなるほどの恐怖を」敗北を宿命づけられた少年が選んだのは、世界の敵となる道だった。
第30回ファンタジア大賞〈大賞〉受賞の新王道マネーバトル!

額さえ積めば何でも叶う、例えば瞬間移動や他人を操ったりという超常現象も起こせる《魔石通貨》を巡って殺し合いの争奪戦が繰り広げられる物語。
新王道マネーバトルの謳い文句に恥じないバトルが面白い作品。
時間停止や反射などの固有能力が《固定資産》になっていてそれを売買が出来るシステムに、その能力の使い方の工夫や逆手に取ることで反撃する頭脳戦なバトル形式が斬新でよく練られている。その上で、命を懸けている緊張感と無駄な説明がないテンポのいい進行で、バトルの読み応えはピカイチ。
一方で、物語としては「理由」が足りない。
主人公がここまでして金を稼ぐ理由。作中では勝ち戦の方が多いのに常に「敗者」を自称する理由。ヒロインを助けたい理由etc.,etc.……
後から説明されるものもなくはないが(稼ぐ理由は酷かった(^^;)、大半はどれもよく分からない。主人公にしろ敵役にしろ、彼らが戦っている時にその背景が分かれば、キャラクターに思い入れができて、バトルがより熱いものになるはずなのに。
光るところがあれば今一つのところもある新人賞らしい作品だった。完成度の大賞よりも将来性の大賞の方がワクワクさせてくれるので好き。