いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「世界の果てのランダム・ウォーカー」西条陽(電撃文庫)

世界の果てのランダム・ウォーカー (電撃文庫)
世界の果てのランダム・ウォーカー (電撃文庫)

深く、広い世界。その全てを知ろうと、天空国家セントラルは各地に調査官を派遣していた。
調査官であるヨキとシュカは、多大な個人的興味と、小指の先ほどの職務への忠誠心を胸に、様々な調査をする。
これは二人が世界を巡り、人々と出会い、(時々)謎を解き明かす物語である。
「――とかいって、なんか凄く良い話みたいだね、ヨキ」
「どうでしょうね。僕はシュカ先輩が真面目に仕事をしてくれるなら何でもいいですけど」
凸凹調査官コンビによる、かけがえのない時間をあなたに。

第24回電撃小説大賞《金賞》受賞作



文明や科学の進んだ天空国家セントラルから、まだまだ未知の国や未開の地の多い地上に派遣される調査官・シュカとヨキの冒険を描く物語。
一回の調査で一話の短編連作形式なのと、能天気な先輩シュカとクソ真面目な後輩ヨキの掛け合いが軽妙で、とても読みやすいのが特長。でもそれと同時に、現地の秘密を進んだ科学で解き明かしたかに見えて実は……という、一件落着後に襖の影から目だけ見えているようなホラー的なオチの付け方と、文明が進んでいよういなかろうが変わらない人間のエゴをが必ず入ってくる各話の作りで、どこかおどろおどろしい余韻を残す。
初めのうちは軽妙さが勝っていて、目的があって帰るところもあるものの、未知の国へ旅をして、現地の人の人生に少し関わって、ラストは教訓めいたものを残していく。そんなキノの旅を思わせる出だしだった。(紹介文がSGSW先生だし)
それが話数が進むにしたがって、次第に冒険の規模が増し、危険度は増し、人のエゴが強烈になっていく。なので気楽な気持ちで読んでいると痛い目に合う。こういうのを後半に持ってきたという事は、怖さ重視のSFホラー的な作品なのだろう。
軽い話でも重い話でもいけるし、短くまとめる力もある。今後が楽しみな作家さん。本作がいくらでも話を広げられる作りだから、次はこれの続きかな。