いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「はたらく魔王さまのメシ!」和ヶ原聡司(電撃文庫)

今回は、魔王と勇者と二人を取り巻く者達の「メシ」に注目するグルメ編!
未知の食材「コメ」を食べるのに四苦八苦する芦屋。ポテトをきっかけにパソコンを手に入れたことを思い出す漆原。愛するうどんを食べることを全力で拒否する鈴乃。忘れていた趣味を思い出し散財してしまう魔王。突然同居することになった「娘」の食欲不振に「母」として悩む恵美。エンテ・イスラからの来訪者達がそれぞれに日本の「メシ」に向き合う中で、千穂はエンテ・イスラの豪華な料理に舌鼓を打っていた!
電撃文庫MAGAZINE」に掲載された六話に書き下ろし短編を加えた特別編が登場! 読んだらお腹が減ること間違いなし!?

メシをテーマにした『はたらく魔王さま!』の短編集



これはある意味凄いかもしれない。これだけ食べ物が出てくるのに飯テロ力がゼロに近い。最後のほっけで辛うじて完全なゼロを阻止した感あるw
文章での飯テロは、その食べ物を鮮明に想像させる表現も大事だが、食べたいのに食べられない「羨ましさ」を演出するのも大事な要素だと思う。その観点で見ると、流石は『はたらく魔王さま!』、生活感が出過ぎていて羨ましさを感じさせてくれない。
異世界人が炊飯器の使い方に悪戦苦闘したり、新米ママが子供の食事に悩む話は言わずもがな。古くなったフライドポテトを何とか美味しく食べる方法や、他の店よりちょっと美味いファストフードなども、羨ましいとは思えない。
唯一、千穂ちゃんがエンテ・イスラの料理に舌鼓を打つ話は生活感から離れたところにあったけど、見た目も味も想像できない異世界の料理に食欲は湧かないという。
と、なんだか腐してしまったが、普通に『はたらく魔王さま!』の短編集として読めば文句なしで面白い。庶民派ファンタジーなこの作品の肝はファンタジーと生活感のギャップな訳で、その生活感が凝縮されたようなこの短編集が面白くないわけがない。
それに昔の苦い思い出を語る形式の短編が多く、日本での生活に馴染み切っていない主要メンバーの姿が懐かしかったり、逆に目新しかったり。中でも魔王と木崎さんとの出会いが読める「魔王、飯のタネを得る」は、木崎さんとの出会いだけでなく、魔王が成長するきっかけがいくつも散りばめてあって、シリーズとして重要で、しかも読んでいて嬉しくなる話。
ビックリするほど食欲は刺激されなかった。でも短編集の中ではこれまでで一番面白かったかも。