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「推定未来 ―白きサイネリアの福音―」間宮夏生(メディアワークス文庫)

推定未来 ―白きサイネリアの福音― (メディアワークス文庫)
推定未来 ―白きサイネリアの福音― (メディアワークス文庫)

決められた未来はない。だが、予測できる未来はある。
どんな瑣末なデータからも予測した犯罪を未然に防ぐという警視庁の眉唾部署・捜査一課犯罪未然防止対策係――通称「ミゼン」に転属となってしまった巡査部長の君島透。ミゼンのことを胡散臭いと疑う彼だったが、そんな男をスカウトしたのは「人の不幸を呼ぶ女」と噂されながらも、犯罪防止を信じて疑わない若き美人係長・如月美姫だった。困惑しながらも如月の下で事件を追う君島だったが、やがてある真実へと辿り着くことに……。

間宮夏生氏久々の新作は、多用な情報を収集・解析し、犯罪が起こる確率を指数化するツール「ストライカー」を使い、犯罪を未然に防ぐ事を目的とした新部署・捜査一課犯罪未然防止対策係「ミゼン」を舞台にした刑事ドラマ。



作者の過去作と変わらず、“人間”を描くのが上手い。
この人の書く女性はどうしてもこうも魅力的に映るんだろう。ヒロインの美姫然り、加賀谷さん然り。
また、九年前の事件から連なる関係者それぞれの想いを複雑に絡めた人間模様が展開される後半は、人の醜い感情が渦巻いていてなかなかの読み応え。
主人公が色々すっ飛ばしてるのにやたらと格好いいラストを含め、人間ドラマとしてはとても面白い。
しかし、「ミゼン」や「ストライカー」に関する設定が、穴だらけかつご都合主義でグダグダ。
どんな計算をしているかよく分からないが犯罪者をズバッと当てる「ストライカー」。そんなに優秀なのに都合よく必要なデータだけ無い矛盾。なのに学校などから個人情報が苦もなく手に入ってしまう矛盾。係長の不在で仕事がなくなる「ミゼン」。何度首を捻ったことか。
そもそもメインの事件は、主人公の刑事が足で稼いで捜査していてストライカー全然関係ないっていうね。そういえば、物語のキーを握っていたはずのヒロインの左手も、最後まで生かされなかったな……。
ここまで色々設定を作っておいて、ここまで消化不良な話も珍しい。
独自設定を無視して、恋愛色濃いめの刑事ドラマとして二時間ドラマを視るような感覚で読めば楽しめると思う。