いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「食費が優しくない」

今日はくりなんとかっていうお祭りだって小耳に挟んだんでおでんぱーてーしちまったぜ!
他に太刀魚の味醂干しの炙りやお高い缶詰牡蠣なんかの贅沢品おつまみも出して、お正月用にとっておいた日本酒も一本開けちまったぜ!
ところで、山車も神輿も出てねーみてーだが、いったいなんの祭りなんだい? おめえさん知ってるか?


……はい、おつまみのグレードが高いだけで我が家のいつもの食卓です。

「飯テロ 真夜中に読めない20人の美味しい物語」(富士見L文庫)

飯テロ 真夜中に読めない20人の美味しい物語 (富士見L文庫)
飯テロ 真夜中に読めない20人の美味しい物語 (富士見L文庫)

戦前から続く寄席「八百万亭」の屋根裏には、寄席わらしのフクちゃんが棲み着いている。入門2年目の萬福亭晴坊は、そのおさんどん係。フクちゃんのリクエストに応え、今日も腕を振るうのだけれど―。(「寄席わらしの晩ごはん」名取佐和子)
忘れられない母親の味、元気が出る特別なスイーツ、噂のお店の裏メニュー、皆で奪い合って食べるおやつ――。いろんな「美味しさ」を詰め込みました。
人気作家の書き下ろしも収録した、読めば読むほどお腹が空いてくる20人の食物語。

飯テロをテーマにしたアンソロジー。三作を除いてカクヨムに掲載されたもの。



注)腹は減りません。
タイトルに反して、飯テロ力はかなり低い。というより飯テロしようとする気がない作品が大半。それでも作品作風はバラエティーに富んでいてその点ではおいしい一冊。人情ものや恋バナからコメディにミステリまでと幅広く、舞台も現代劇に時代劇、あやかしが出てくる話もあればに異世界ファンタジーもありと何でもござれ。
飯テロ力でいうなら『異世界米騒動』か。焼きおにぎりの食感と匂いの丁寧な説明に食べた人の反応が食欲をそそる。但しこの話、設定もオチも微妙なので短編として面白いかは別。あと胃袋を刺激する系ではないが、飲んでみたくなったのは『味噌汁王子』のすだちの入った味噌汁。飲んだらホッとしそうなところが、作品のホッと一息なラストとリンクしていてとても良い。
飯テロを抜きにしたお気に入りは、
母の愛情と父の頑張りと娘の成長がちょっと変わった表現方法で楽しめる『Mother's recipe』。恋バナでは、楽しかった大学時代と現状の切なさの対比をアクセントにしつつ、最後に程よい甘さで締める『炊飯器の中の宇宙』。コメディでは家族団欒で映画鑑賞中のポテチ一袋を巡る争いを仰々しく描いた『ポテチ戦争』。こういう全力でバカやってる感じの作品凄く好き。と、この辺りか。
後は日向夏さんが『カロリーは引いてください!』の短編だったのが嬉しい誤算。こんなところでまた、あのハイスペックデブの活躍が読めるとは。
飯テロと言う点では思いっきり肩透かしだったけど、良い人情話が多くて作品としては十分楽しめた一冊。食と人情は切っても切れない関係なんだと再確認。