森と街の狭間を私は歩いていた。
アスファルトの上に、私の小さな影、頼りない街灯が道を照らす。新月の晩。静かだった。その静けさを乱すこと無く、影のような足取りで、狼が現れた。白い狼。低く静かな声で狼は――話した。「私と結婚してもらえないだろうか」
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肌寒い冬のある日、真っ白な狼に突然、求婚された少女・塚木咲希。孤独をうちに抱えた二人が出会ったとき、現実世界に“神話”が侵食しはじめる!
異形ゆえに同胞に疎まれた狼と家庭でも学校でも忌み嫌われ世の中全てを敵視する少女の物語。
これは随分とMF文庫Jらしくない不思議な作品で。あらすじを読んだ時点ではもっと壮大なファンタジーかと思ったら、意外と現実世界寄りの話だった。
作品の雰囲気が凄く好き。
根底になるものは絶望でいくつもの狂気が入り混じっているのに、どこか美しい。その独特の雰囲気を醸し出しているのが主人公の咲希。咲希の刺々しさや女の子らしからぬ気高さはまさしく一匹狼。それに対して狼であるシロが逆に妙に人間臭い台詞をよく口にするので、二人の会話や対比が面白く、また咲希の鋭さを強調している。
作者(あとがきで)曰く『細かいことは気にしないで萌えて!』だそうだけど、割れたガラスの切っ先ような美しさを持つ咲希は萌えの対象ではないなあ。
神話を織り交ぜて進んでいくストーリーもなかなか興味深かった。ただ、終盤にシロが空気と化してしまったのが非常に残念。咲希の抗いもシロの時と同様に二人で戦って欲しかったし、この話の流れで最後がよくある人間同士の異能アクションだったので拍子抜けした。
後半が尻すぼみ気味なのが少し不満だけど、なかなか好みの作品だった。