１０年ぶりに帰ってきた町、あたしこと早崎夏耶が転校先で再会したのは幼馴染みにして初恋の彼「芝村和樹」だった。なんてロマンチックなシチュエーション！ 再会した幼馴染みとの燃え上がる恋！と盛り上がるあたしをよそに、和樹のヤツ、アタシと気づかずに無視して机で熟睡してるし!!
放課後、和樹をとっちめようとするあたしは図書室で、つややかな黒髪ロングのお嬢様「香坂春奈」と和樹が一緒に居る現場を押さえてしまう。腕を組んだり仲良さそうな和樹と春菜に男女交際・不倫フラグの予感を感じるあたし。しかし次の瞬間、図書館を包みこむ光に巻き込まれ、気がづいたら見知らぬ異国の地へ。なに、ここはどこ？ 『はてしない物語』みたいに本の世界に入ったですって。そんな非常識よ―――っ!!
三人と一匹が繰り広げる、不思議旅行と切ない三角関係の物語がここに開幕する。
物語（本）の中に入り、そこで物語世界にばら撒かれた世界を歪めるウイルス（マビノギ）を回収するという話。
一つの問題を解決して次へ進むというスタイルは同作者の「二四〇九階の彼女」と同様の作り。
ヤキモチ合戦が可愛い。
一途で猪突猛進な幼馴染み夏耶とミステリアス少女春菜、和樹を巡って争われる女の戦い。まだ相手のことを知らなくていがみ合ってる姿も、事件を通じて仲良くなった後もやっぱり張り合っている姿もニヤニヤもの。
欲を言えば、夏耶だけでなく和樹や春菜の胸の内をもう少し明かしつつ進めてくれれば、二人にも感情移入が出来て楽しく読めたかなと。
また、物語の中に入った時の盛り上がりもなかなか。ピンチの時の反応や対処法にはリアリティがある。
ただ世界観の方が持て余し気味。
この設定で目先のことをコツコツ解決していくのはちょっと無理があるような気がする。マビノギの裏にチラつく黒幕の影や、マビノギをばら撒いた目的などを匂わせてくれないと全体的には盛り上がりに欠ける。
面白かったけど、この先どうなるんだろう？という期待させる部分があまりないのが残念かな。
