いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「戦う司書と世界の力 BOOK10」山形石雄(スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と世界の力 BOOK10 (集英社スーパーダッシュ文庫 や 1-10)

世界の滅亡間近、仮想臓腑内のルルタの目の前に現われた、かつての人間爆弾コリオ。密かにルルタを狙うのは、「死」によって本来の能力が発動したハミュッツ。世界の命運は、彼ら二人に託された。コリオの言葉は届くのか? ハミュッツの逆転はあるのか? そしてルルタの愛は何をもたらすのか? 人々が受け継いできた『本』たちが最後に示す答えは、希望か絶望か? 激闘につぐ激闘、武装司書たちのフィナーレに待つものとは――『本』をめぐる壮大なファンタジー、第10巻。新人賞大賞受賞シリーズ、威風堂々の完結!


凄かった。
こういう言い方は漠然としていて好きじゃないのだが、これは凄かったとしか言いようが無い。
まず襲われるのが圧倒的な絶望感。
誰もが悲痛な過去を持ち誰に肩入れして読んでも悲しく苦しい状況の中で、ルルタの、コリオの、ハミュッツの一縷の望みが次々と打ち砕かれ、九死の一手が次の絶望を生む展開に息を飲む。息を飲んでいる時間が長くて溺れそうだった。
そんなどん底の状態から始まる逆転劇は、涙なくしては読めない愛と希望の物語だった。
起き上がる武装司書たちに仮想臓腑に現れる過去の登場人物たちと、最終巻ではよくある全員集合のラストシーンではあるが、ここまで感動的な全員集合は他に知らない。
絶対的絶望となったニーニウに対し、人々の想いが少しずつ活路を見出していくという構図だけでもくるのに、各個人のシーンが涙腺を刺激するものばかり。コリオの本物の強さに、ハミュッツのまさかの最期に、ルルタの愛に、涙が出た。


思い返してみると、一番初め(1巻)に物語が動き出したのも、最後に絶望から希望に転じさせたのもコリオだったなあ。武装司書やそれに対抗する者など力を持つ者ばかりの物語の中で、何の力も持たない彼の行動が物語を動かす結果に勇気をもらえた気がする。エピローグでマットアラストにみんなが主役だったという台詞があるけど、自分にとってはコリオが筆頭。仮想臓腑内で次々と最期を迎えていく登場人物たちの中で一番泣けたのはコリオのシーンだったし。


重厚な世界観の中で愛を語る物語。これまでも美しいものも悲しいものも狂気なものも色々な形のものを見せられてきたけど、最終巻はまさにその集大成のような愛の詰まった物語で、最初から最後まで圧倒されっぱなしだった。
新人賞受賞から戦う司書一筋だった作者が次に紡ぐ物語が楽しみでならない。