いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「初恋彗星」綾崎隼(メディアワークス文庫)

初恋彗星 (メディアワークス文庫)
初恋彗星 (メディアワークス文庫 あ 3-2)

ある夜、逢坂柚希は幼馴染の紗雪と共に、重大な罪を犯そうとしていた舞原星乃叶を助ける。彼女は紗雪の家で居候を始め、やがて、導かれるように柚希に惹かれていった。それから一年。星乃叶が引っ越すことになり、次の彗星を必ず一緒に見ようと、固い約束を三人は交わす。しかし、星乃叶と紗雪には、決して柚希に明かすことが出来ない哀しい秘密があって……。
緻密な構成で描かれた、狂おしいまでのすれ違いが引き起こす、「星」の青春恋愛ミステリー。

前作『蒼空時雨』と舞台を同じくした別の恋の物語。



主人公逢坂柚希の幼馴染 美蔵紗雪の人生をかけた嘘の物語。というより、内容といい幕間=タイトルといい紗雪が主人公としか思えない。今回はそこに仕掛けは無いのだが・・・登場人物紹介の主人公詐欺は恒例になるのか?



この嘘はどう判断すればいいんだろう。
他にやりようはいくらでもあっただろうにという思いと、この嘘でなくて駄目だっただろうという思いがせめぎ合って答えが出ない。
ただ、そんなどうしようもなく不器用な嘘をついた紗雪が愛おしく思うことだけは確か。
表面上は感情の一部が欠落していても、普通に嫉妬はするし傷つきやすいし、少し卑怯でひどく不器用と、最も人間臭かったのが紗雪。だからなのか、彼女の嘘は優しい嘘だともついていい嘘だとも思えないのに、理解できてしまう。許せてしまう。そんなふうにどっぷり彼女に感情移入してしまったので、星乃叶の過酷な運命や柚希の覚悟など泣けるシーンがいくつもある中で、紗雪の一筋の涙が一番泣けた。
彼女の嘘がもたらした結末はハッピーともバッドとも、良かったとも悪かったとも言えない複雑な気分だけど、読んで良かったとだけは素直に思える不思議な読後感。
今度の恋は切なさたっぷりで優しさも甘さもなかったけれど、やっぱりこの作者が紡ぐ恋が好きだ。
次回作も同シリーズで決まっているようなので今から楽しみ。しかし既にイラストがある次作予告って珍しいな。