いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「INNOCENT DESPERADO」綾崎隼(メディアワークス文庫)

INNOCENT DESPERADO (メディアワークス文庫)
INNOCENT DESPERADO (メディアワークス文庫)

好きな人が好きな人を、強がりではなく好きになれたら良い――。家族の不和、消失する未来、そして叶わない恋。青春時代に翻弄される四人の少年少女は、かけがえのない存在を守るために、日常からの『家出』を決意するのだが……。
舞台化もされた傑作恋愛小説『蒼空時雨』より遡ること10年。高校生だった紀橋朱利は、友人との逃避行の果てに何を見出し、何を失ってしまうのか。
トイズファクトリーからデビューしたアーティスト・秋赤音とメディアワークス文庫作家・綾崎隼が紡ぎ出す。
ロックで彩られたセンチメンタル・ラヴ・ストーリー。

電撃文庫MAGAZINEに連載されていた綾崎隼さんと秋赤音さんの『二人で書(描)いてみた』というコラボ企画。



『蒼空時雨』のメインキャラの一人紀橋朱利を軸に、4つの家出から始まった夏の逃避行を描いた青春群像。
自暴自棄になりそうだったところを朱利に救われ彼に片思いする凪沙、底抜けに明るい爽馬に恋する凜乃。叶うかもしれない恋と叶わないであろう恋、その二つだけでも恋の甘酸っぱさを味わえていたし、10年後にはほとんど見せなかった有能な立ち回りに朱利への認識を新たにしたり、逃避行の中で交錯する彼らの心中に青春を堪能できていたのだが……。
一つの涙で景色が一変した。
叶った恋の裏にある叶わなかった恋が二つだと知り、最終話で朱利の口から語られる逃避行の裏にあった真実と彼の行動を知った時、切なくて押し潰されそうになった。
自分が傷つくことをいとわず常に最適解で行動する朱利の姿は、想い人に対する愛の深さ、想いが強すぎて痛々しくて目を背けたくなるほど。
ごめんよ、朱利さん。あんたのこと結構なロクデナシだと思ってた。
10年後の『蒼空時雨』ではダメなところばかり印象に残っているし、今作の冒頭でもそうだった。
でも、自分をコントロールできていない母、望んでもいないのにモテる自分、そしてこの物語。出来る人なのに人と深く接することには極端に臆病な性格はこうやって形作られていったのか。
最終話のラスト、夏音と朱利の愛に対する捉え方の違いの会話はしばらく心に残りそうなほど印象的だった。
朱利の印象が全く変わった。また『蒼空時雨』を読み返そう。紗矢だけじゃなく朱利も祝福できそうだ。





第三話のモチーフになった曲がニコニコにアップされています。