いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「サクラダリセット7 BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA」河野裕(スニーカー文庫)

サクラダリセット7 BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA (角川スニーカー文庫)
サクラダリセット7  BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA (角川スニーカー文庫)

「私が将来の夢を失くしたのは、貴方に出会ったからよ」能力を失くした相麻菫。「私は貴方を、覚えていません」能力を失くした春埼美空。改変された咲良田で、ケイはひとり、ふたつの記憶――街に能力が存在する本物の記憶と、能力が消滅した偽物の記憶――に直面していた。自らの過去に区切りをつけるため、ケイは初めて咲良田を出て――。複雑でシンプルな、大人のような少年がたったひとつを祈り続ける物語。堂々完結!!


浅井ケイによる咲良田の再生。咲良田の未来を決める最終巻。
ケイは何度「我儘」という言葉を使ったんだろう。その通りだと思う反面、この言葉ではしっくりこないという思いも強く残る。
目の届く範囲を全て救おうとする彼は間違いなく欲張りではあった。やり方だけを見れば綺麗事で独善的とも思える。でも、ケイの目指すものと背負う苦労を目の当たりにするとそんな印象は霧散する。常に自分よりも周りの幸せを考え必要以上の苦労を背負い込むケイの我儘に「我」はあるのだろうか。それに立ち回りは大人以上に器用なのに、目的までの道の選び方はなんでこんなに不器用なんだろう。でも、この不器用さこそがケイのこの物語の魅力なんだろう。
そんなケイが選んだ遠回りの道で少年少女たちが紡いだ物語は、みんなから優しさから感じる温かさ、若者らしい潔癖の尊さ、全てわかっていながらケイを救った相麻菫から感じる切なさ、強くて脆そうな彼らの心から感じる儚さ、色々な感情がまぜこぜになって複雑で不思議な感動だった。
でも最後は、純粋に「嬉しい」だった。
この物語の儚さの象徴だった春埼美空。彼女が盲目ではなく自分の意志で彼を選択し、幸せであったラストは文句のつけようがないハッピーエンド。ケイの一番の目的がここだったからこそ、彼の想いに共感できたんだと思う。
そっと触れても壊れてしまう緻密なガラス細工のような透明感と儚さを併せ持つ独特な雰囲気のシリーズで、最後までそれを保ったまま走りきってくれた。一つの美麗な芸術品を眺めているような作品だった。
素晴らしい物語をありがとございました。